その頃があった
恋愛小説を買った。
いつ以来だろう。初めてかもしれない。
大学生、社会人の頃は恋愛映画とドラマを観てのめり込んでいた。
この二人はくっつくのかと思いきやすれ違ったりするのを「もうっ」と焦れたしていた。
恋愛。
すっかり疎遠になってしまった。
べつにそんな自分に、そんなことでいいのかと揺さぶるつもりで読み始めたわけではないのだが、大学生の若い二人が相手との距離感をはかりながらも、気になり始めているのを読み進めていくうちに、自分のその頃を思い出していた。
その頃。
彼の言った言葉を頭の中で何度も何度も思い返す。
「あれはどういう意味だったんだろう」好意があるような気もする。いやいや、自惚れるな、あんなの誰にでも気安くいうリップサービスだとブンブン頭をふる。
歌謡曲の歌詞もドラマの台詞もすべて自分にかさねてしまう。
そんなときが確かにあった。
すべてがそこにつながっていた。
今の私はすべてが家族につながっている。
健康、食事、献立。家族が嬉しそうにしていれば心が落ち着く。
家族が不安そうだったり怒っていたりすると、引っ張られまいとしても気が重くなる。
自分の足で立とう。
誰かに幸せにしてもらうのではなく。自分で自分の面倒をみて甘やかして、律して。
自分をたっぷり満たして家族を包み込みたい。
小説を読みながら若い二人が愛おしい。
相手を探り近づいては離れ、また近づいて傷ついたりときめいたり。
もう私には遠く離れた世界のページをめくりながらときどき、台所に立ってキャベツを切ったり鍋をかき混ぜる。
ちなみにその彼は今の「ヒーン」の彼では、ない。