平和
午前中、またどうにも起きていられなくて、ベッドによじ登る。
手元にステレオ、テレビのリモコンを起き、読みかけの本、クッションを二つ重ね、体ごとそこに落ちていく。投げ出した足を椅子の上に乗っけると少し高くなって気持ちいい。
CDを聴きながら、本を広げ、すぐに目を閉じた。
静寂。風に乗って洗濯物の匂い。
息子は大学生。夫は真面目で優しい。
ちょっと前は息子が学科を移りたい、学校がつまらないと毎日辛そうで、ハラハラしていた。
そのちょっと前は大学に合格するかとハラハラしていた。
そのちょっと前は夫の単身赴任が決まり、荷造りをしていた。
同じころ、母に「お姉さんが老後寂しくないようにあなたを産んだのに、こんななっちゃって、私の人生失敗だった」としみじみ言われ、しみじみ悲しかった。
そのちょっと前は鬱だった。死にたいと思っていた。孤独だと心を閉じていた。
そのまたちょっと前は病院のベッドの上で暮らしていた。
息子は大学生。夫は真面目で優しい。清潔で居心地のいい家。愛する家族。
生きている。歩いている。朝食を作り、家族を見送り、買い物に行く。1日8000歩歩く。本が読める。ベランダに洗濯物を干している。
人のためにハラハラしたり、手助けしたり、喜ばせたり。
母が愛おしい。姉に卑屈な感情は消えた。
夫に出会えてよかった。
息子を産めてよかった。
落ち込んでも立ち直る。つまづいても立ち上がる。
落ち込みながらドラマを観る。
つまづいて擦り傷作りながら、へへへと笑う。
満ち足りてる。
気がついたら欲しいもの全て手に入れている。
望んだもの全部、持っている。
ぬくぬくしたベッドの上。
また本を広げて読んでは目を閉じる。
静かだなぁ。
この世の幸せの味わい方がだんだんわかってきたみたい。
揺れて揺れて波に乗って。ゆらゆらゆらゆら。