お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

明日消える

静かな水面。

ポンっと石が投げ込まれ、波紋がぐわんぐわんぐわんと、大きくあたりに広がった。

私は美しい水面に戻したくて、水面を手で撫でたり、葉っぱを浮かべてみたり、あれこれやってみる。

慌てふためいて何かやればやるほど、水面は荒れ、私は疲れ果て絶望する。

もうだめだ。

悲しくなって小さなくらい部屋に閉じこもる。

 

あれから数年。

穴から出てくると水面はキラキラと光が当たって輝いていた。

水面は穏やかで平らに広がっている。私はもう一度水辺で暮らせそうな希望に嬉しくなる。今度こそ。今度こそ。決して乱すものか。

そうっとそうっと気をつけて気をつけて。

とても気をつけていたのに、また、石がポンっとどっかから飛んできた。

ぽちゃ。

雨も降ってきた。

また大きな小さな波が広がっていく。水面は大きく揺れて、あちこちポツポツ輪っかができ、消えない。止まらない。

私はまた、慌てて走り回る。水面をなでてなんとか止めようと、できるだけ大きな葉っぱを探す。

どうしたの?

葉っぱを探しているの。

なんで?

水辺が乱れて、心が息が苦しいの。

一人で探し回らないで、大事な人に相談するといいよ。

その人一人に打ち明けたら、あとは、じっとしてればいいんだよ。

葉っぱなんかいらないよ。

走り回っていた私は立ち止まり、大事な人のことを思う。

あの人に相談しよう。あとはじっとしていよう。

 

何にもしないで濡れたまま立っていると雨は弱まり、止んだ。

水面の波紋は次第に弱くなっていく。

水の中にどんどん吸収されては消えていく。

雲の隙間から少しだけ、太陽のかけらが見えた。

弱い弱い波がふわふわとキラキラと照らされる。

あぁ。波は波で、綺麗なんだな。

もうすぐ完全に消える、この波紋の輪っか。

あの人が明日帰ってくるから、明日はあの人とじっと眺めよう。

二人で消えていくまでじっと見ていよう。