お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

暖かさ

お陰さまで我が家に台風での実質的被害がなかった。

それでも気圧、緊張感、多少の後片付け、親族友人達の安否確認など日常と違うこの数日に知らず知らず心も身体も参っているようだ。

テレビやネットから溢れてくる情報で、つい4つ隣の駅周辺では浸水停電がいまだ続いていると知る。

すぐそこで助け手をもとめているというのに自分は役に立てないことが歯痒い。

申し訳なさから逃れたくてスイッチを切った。

するとそこはいつも通りの台所。

たちまち自分だけ呑気の世界に逃げてきてしまった。

後ろめたさに似た気持ちからまたテレビをつけた。

断水、給水所に関するテロップが上の方に流れていく。みるともなしに見ているとそこに「いわき市」という文字を見つける。

いわきには友人が居る。大学からの付き合いで夫と結婚するときも「見せてごらん」と食事を一緒にし「いい奴じゃん。」と喜んでくれた。入院したときはすっ飛んできてくれた。

彼女の住むところもだろうか。慌てていわき市のホームページを覗いたがそういったことは載っていない。

迷ったが直接市役所に電話をして聞いてみた。

住所を言うと

「あ、〇〇さんのところ・・・で・・すよね」

と個人名で確認されることに驚いた。そうだと言うと「あぁ・・すみません。断水エリアに該当していますねぇ・・」と私に申し訳なさそうな声で言う。

復旧の目処はつかないが、うまくいけば今日の夕方にでも出るようになるかもしれないと教えてくれた。

「あの、どうなんでしょう、浸水のほうは大丈夫でしょうか」

図々しく水とは関係ないことも尋ねると

「この方のお家に限って言えば、今日、私、そのあたりを通って出勤してきたんですが、その様子だと浸水被害はないでしたよ、大丈夫だと思います」

丁寧に答えてくれた。忙しいはずだから煩がられるだろうと思いつつ電話をしたので、思いの外の暖かい対応にキュッと締まっていた心がほどけていく。

被災地の方に癒されるなんて。

彼女に水を送ろうか、今日復旧するなら届いた頃には邪魔になるだろうか。

話を聞きながらずっと気になっていたことを、この人の優しさに甘え聞いてみた。

「腐るものじゃありませんし送っていただけるなら助かると思います。そうしていただけると助かります」

そうですね。そうですね。じゃあそうします。お忙しいところ本当にありがとうございました。

電話を切ったあと、なぜだろう、とても安心した気持ちになっていた。

市役所のあの人の暖かさが被災地でない私を元気付けた。

私のできることを探そう。そしてそれがたとえ些細なことでも、やろう。

彼からもらった暖かさを連鎖しよう。