かわいいでないの
昨日から夫の学習用CDをiPhoneに取り込む作業をしている。私が。
彼は仕事で使うエクセルに関してはマクロ的に詳しいがそれ以外は「嘘っ・・」とびっくりするくらい疎い。
基本、自分が知りたいことはズンズン掘り下げ研究するが興味ないとなると、一切手をつけない。
アプリのアップデートも危ないからしない。
ラインも仕事場の仲間から「頼むから入れてくれ」と言われ渋々デビューした。
名刺をスキャンして自動的に整理してくれる便利なアプリがあるよと言っても「いいから」と机の引き出しの箱に頂いたものを保管している。
そして。
ずっと気になっていたのは、彼の持ち歩くCDプレーヤだ。
毎朝大きな黒いカバンに毎朝ポータブルとはいえ重いプレーヤごと押し込み、コード付きのイヤホンを耳に入れ出かけていくのだが、そのかさばり方、重さ、不自由さに改善の改余地ありすぎてそれをしてやりたくてやりたくて。あんなものをゴソゴソ満員電車の中で操作されたら周りの人だって迷惑だろう。
気をつけないと荷物が多い時はプレーヤを背広のポケットに入れようとする。
いくら携帯の中にある音楽プレーヤに音を取り込めばそのおっきな機械を持ち歩かなくていいんだと言っても、新しい機能に手を出すことが億劫なもんだから「いいの!」と突っぱね言うことを聞かない。
それがどうした気まぐれか「やって」と言ってきた。
いいよと引き受けたものの、渡されたCDは18枚。一枚につき少なくて74、多いものだと92のレッスンが入っている。それを全部取り込みグループ別にプレイリストを作りたいのだが、そもそも肝心なIDとパスワードがわからない。
「IDってなに」
無理もない。メールとラインしか使っていないから購入時に作成したアカウントなんか使うこともないまま忘れてしまっているのだ。
メモしておいてくれればよかったのだが、携帯電話の店員さんに支持されるがままその場でセットアップしたらしく何が何だかわからないままだったらしい。
IDを思い出すまでに半日、パスワードを再発行して、携帯に設定し直し、それを彼のパソコンにも設定し、
「そしたらこのパソコンにくるメール、こっちでも受け取れる?」
というのでそれもついでに設定し、私の携帯からメールを送って
「あ、キタキタキター」
と喜ばせ、いよいよCD取り込みにかかる。
えらいのに手をつけちゃった。
しかしこちらから提案したので投げ出すわけにもいかない。パソコンの手紙が携帯で受け取れるようになったことくらいであんなにはしゃぐなら、これが完成した暁には感動モノに違いない。
その顔を見たい。
ただそれだけのために黙々とやり続ける。
ふと見ると、すぐ横でラグビーW杯のハイライトをうっとり頷きながら携帯の画面に食い入っている男が。
「こら。来週試験だから勉強するんだって言っていたのでは?」
「あ、やってるやってる」
またしばらくすると今度はラグビーマガジンを読んでいる。
「・・・。そこのキミ・・なんで私だけヘトヘトなんだよ、消すぞ、全部これまでの」
「ダメダメダメダメ。やってるやってる、ちょっと休憩してたの。・・できた?」
できたとか呑気に言うな。
合間合間に洗濯、買い物、料理をしながら二日間かけて全ての作業が完了したのは、今日の夕方6時前だった。
プレイリストの名前が長いと言うのを直し、このレッスンをこっちに入れたいと言うのを直し、再生、一時停止、終了などの使い方を説明し終わった今、ぐったりもう何もしたくない。
その横で元気ハツラツ、夫は浮かれる。
「明日からこれにイヤホン繋げればいいの?」
「そうだよ、やってごらん」
うん、と、二階からいつも使っているイヤホンを持ってきて再生してみる。
「オオゥ」
喜んでる喜んでる。
「こうでしょ、こうやるんでしょ」
部屋着の短パンのポケットに携帯をツッコミ両手を上にあげて歩き周り、ドアのガラスに映る自分を確認して満足そうに変なポーズをする。
まるで新しいおもちゃを手に入れた子供のようだ。
かわいいじゃねえか。
疲労度マックスが報われる。
が、もう迂闊に口を出すまい。
ぐったり。