わかったってば
6時だよと起こしたら土曜だから出勤はないのだったとヘマをやらかした翌朝、6時半に目を覚ましたら夫はいない。
あ、そうだ。今日はテストに出かけるから7時に家を出るといっていた。
今日は起きないといけない日。
降りていくと新聞を広げている。
「おはよう」
「おはよう。もう食べたの?」
針は40分を超えているのに余裕でじっくり記事に目を通していた。
「まだ。歯だけ磨いた」
なんだ。納豆ご飯で済ませていないのかと思う反面、朝ご飯を作ってやると言う自分の出番がまだ残っていたことがちょっと嬉しい。
嬉しいと言うよりも、ありがとうと言わせる隙が残っていたというところである。
昨日の残りの鍋で雑炊にする。
鍋の翌日に作る雑炊に彼は必要以上に感動し、感謝する。
とても難しい料理だと思っているのか、豚汁より筑前煮よりありがたがるのだ。
卵を一つにしようか、二つにしようか迷ったが一つにした。
残りがあと3つしかない。私は毎朝卵を一個食べることにしているから。
今日買ってくればいいだけのことだが、買い忘れることは私の場合可能性が高いしな。
卵をケチった代わりにネギをドバッと入れ、塩で味を整え蓋をして蒸らす。
その代わりに、のつもりでブリの麹漬けを焼き始めた。
夫は洗面所で髭を剃り顔を洗っているが、これが終わるまでに焼きあがるかどうか。
「準備できましたぁ」
ブリはまだ焼けていない。麹で焦げやすいからとアルミホイルで包んでいたからか、いつもより焼きが甘い。
雑炊を器に盛り、梨を剥いてカウンターに置くとありがとねとさっさとお盆に乗せて持って行き食べ始めた。
ブリ。ブリはまだかっ。
大盛りの雑炊をさらさら勢いよく飲み込んでいく。
途中、新聞を読みながら手が止まる。いつもならクレームを入れるとこだが、今はそれも時間稼ぎになるので都合がいい。気がつかぬことにする。
グリルを開けて魚の具合をみる。
同時に夫の皿具合を見る。残りあと少しになっている。
荒っぽく皿に移し、食卓に持っていった。セーフ。
「ブリ」
「あ、ありがとぅ焼いてくれたの?」
嬉しそうに受け取ったのでよっしゃと、いい気分で鍋を洗い始めるると「ごちそうさま」とすぐにお盆を持ってきた。早いではないか。
「ごめん、時間なくなっちゃってブリ、今晩食べるから。ありがとね。食べさせようと思って焼いてくれたんでしょ。今晩、食べるから」
やはり、アウトであったか。
「ごめんね、せっかく焼いてくれたの、今晩、食べるから、これ、とっておいてね」
「いいよ」
手付かずのをラップに包んでいるとそれを見ながらまた側で「ごめん、ブリ焼いてくれたのにね、今晩、食べるから」と言うので
「わかったてば、うるさいなぁ」
と返した。
「頑張って焼いたのにねごめんね」
この場合、とんでもないのは妻の方です。