魔法の時間
歯医者にいく日。
12時の予約なので、ついつい10時近くまで息子とダラダラしてしまう。彼も彼で今日までにレポートを完成させる予定らしいのに。怠惰な親子。
テレビの番組が終わったところで、消す。
「さてと」
自分に言い聞かせるよう声をだし、立ち上がる。
やる気はないが、身体が動き始めると、しぶしぶエンジンがかかりはじめるから不思議だ。
「母さん何時頃帰るの?」
「さあ」
2時には帰ってこられると思うが、なんとなくそう言いたくない。言えば気が急く。
「おれ、昼なに食べたらいい?」
おい。誰だ、俺のことはもうかまわなくていいとつい先日、大見得を切ったのは。
「何食べたらいいかしらねぇ」
「・・・自分でやるか・・なんか食いたい・・どうするべか」
「ご飯炊いておくから、お味噌汁の残りと卵でも焼いたらどう」
「えー、ごはん、卵だけ?」
「・・・・・・昨日のミートソースが残ってるからそれは・・・」
「あ、それいいね、それにするわ」
うう。今晩それを使い回してドリアにでもしようと思っていたのに。
冷凍庫を覗くと生協のバラ凍結のひき肉が少しあった。
たまねぎ、人参、舞茸、かぼちゃを取り出し適当に切る。
肉にカレー粉、コリアンダー、ナツメグ、クミンをふりかけ、炒める。少しの水と玉ねぎと舞茸を入れ蒸し煮にする。玉ねぎが甘くなったら水とカレーフレークを入れ、チンしたジャガイモ、人参、カボチャを入れてコトコト。ぐつぐつ。
ついでに蒸してある金時豆もいれた。
ほとんど野菜のカレー。味見をすると、ちょっと尖った、それでいてなにか物足りない気がする。でも我慢。いまはここまで。あとは時間がいい味にしてくれると信じる。祈る。
この時間が解決してくれると、一旦火を消すことができるようになったのは最近のこと。
つい、今、おいしくしたくて、カレーにしても肉じゃがにしても、その場であれこれ足して、どんどんピントのずれた味にしてしまうのが常だった。
待つ。保留する。一旦離れる。
料理だけでなく、なんでも思い通りにいかないからと、焦ってあれこれしないこと。すぐに結果を求めないこと。
見えない力が知らないうちにいい方向に引っ張ってくれることって、あるのだ。
今なんとなく違うなあと違和感を感じても、動かずじっと踏みとどまっていると、そうでもないかと思える時期がやってきたりする。
「溺れるっ!」とバタバタしないで、力を抜いてみると身体が水面に浮くように。
鶏胸肉に小麦粉水、オリーブオイルと粉チーズとパン粉を混ぜたのをくっつけてホイルにくるんで冷蔵庫に入れた。
あとは夕方これをトースターで焼いて出来上がり。
ヒットは狙わず、小さな手をかけて。
いつも自然と、そうできますように。