お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

老後友達

雨上がりの午後、近所の友人から、愚痴りたいからこれから行っていいかとラインがきた。

どうぞと言うとすぐに来て珈琲と豆菓子をつまみながら話し出す。

我慢ならない内容は旦那さんに頼んでおいた生協の受け取りの不手際だった。

資源回収のため、別によけて置いた梱包段ボール、プラスチック容器、瓶などを渡して欲しいとたのんだそうだ。ついでに先週のカタログも渡してねと付け加え彼女は家をでたという。

『そしたらさ、帰ってきたらアイツ、今週もらうはずのカタログも返しちゃってんの、それじゃあ今週注文できないじゃん、まったくバッカじゃないの?子供だってできることだよ、まったくさあ、腹が立つ』

いかにも私がしでかしそうなポカを情け容赦なく罵るのでいたたまれなくなり

『でもネットで注文できるでしょ』

つい旦那さんの肩をもつと

『そうだけどさ、人の話をちゃんときいてないからだよ、そうやっていつもいい加減だから何頼んでもダメなんだよ』

このお宅のご主人は働いていない。数年前、理由は聞いていないが会社を辞めてそれ以来彼女がパートや単発の仕事をし、それによって生活している。

それ以外にも町内会の役員、自分の親のお世話で週一回実家に行ったりと常に働いている。

もちろん料理洗濯もすべて彼女がやる。旦那さんは彼女が台所に立つとそっとテレビの部屋に移動してじっと待っているそうだ。

疲れ切って帰ってきたら、台所もそのまんま、掃除機もかかってなく、そして生協のカタログを返してしまったとなればプチンとなにかが切れるのも判る気がする。

それから彼女はこの数週間、特別忙しかったことをツラツラ話す。

『そんでさ、凹むこともあってさ』

中学のときの担任の先生が亡くなっていたらしい。

『大好きな先生でさ、ひと月に1回くらい実家に行ったとき顔出していたんだよ。この前行ったときなんか凄く痩せてて、先生どうしたの大丈夫?って聞いたのに、ちょっと疲れたからかしらって。あのとき、もう知ってたんだよ』

家族同様に親しくしていたのに、亡くなったことを知らせてもらえず、身内だけの葬儀がすべて済んでから娘さんから電話がかかってきてことも堪えたのだろう。

気の強い彼女が話しながら目をこする。

こっちか。だれかにきいてほしかったのは。

それから話はまた旦那さんをボロクソにこき下ろす方にもどり、また、先生の話にもどり、こき下ろし、少し泣いて落ち着いた。

『ね、今からこの庭、ケルヒャーやっていい?』

かつてから我が家の苔むしたコンクリートを圧力の水でサーっと綺麗にしてあげるというのを面倒でことわってきた。それを今、なにを思ったかやらせろと言う。

『いいよぅめんどくさい。もうじきみんな帰ってくるし』

『一時間で終わらせるから』

さっと家に戻ってマシンを持ってまたやってきた。

ものすごい音量と水しぶきをあげ、コンクリートを洗っていく。

アシスタントの私は蚊に刺されたから首に薬を濡れと言われれば塗り、ホースが絡まったと言われれば持ち上げる。

やんでいた雨もシトシト降り始めたがスイッチが入ったらもう止まらない、取り憑かれたように水を撒く。

結局一時間では終わらず二時間半やり、6時になったところ半分を残し作業は終わった。

『やり残しが気になるから近いうちにまた来るよ』

いい、いい、私は気にならないからしばらくこのままでいいと断ると『私の気が済まない』ときかない。

それではお任せすると降参すると納得した。

『あぁ、すっきりした!ありがとね!』

人の家の庭を掃除したくせにお礼を言って、弾む声で帰っていった。

彼女は老後、私と暮らすと言っている。。。