お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

職人リターン

 

一昨日、高圧水流マシーンで庭を綺麗にしてくれた彼女が「やり残しが気になる」と、午前中やってきた。

「私は気にならないって」

「いや、昨日帰るとき続きはまたって言ったでしょ。あるのよやり残し」

「やめようよ〜」

「いいや、やる」

・・・・。

関東地方にお住いの方は覚えていらっしゃるだろうか。今週の火曜日の天候を。

そうです。

深夜から明け方にかけて叩きつけるような雨が降り、夜が明けても降ったり止んだりの、それこそ梅雨前線もやり残しを一気に解消しているかのような朝だった。

遠足でいうなら中止。

運動会であっても中止。

しかし彼女は言う。

「もってこいの高圧水流日和だよ♪」

雨で緩んだ汚れが落ちやすくて作業が捗るのだそうだ。

「とんちゃんは家の中にいて見てればいいから」

そうは言うが。

「明日は?」

「明日は私実家に行くから」

「じゃ、明後日でもいいじゃん」

「明後日は午前中は仕事で午後は娘の学校の野球の応援」

高圧水流日和な上に、今日が都合がいいと押され、私は阻止を諦めた。

10時から2時間、その間、友達と食事に行くと言う母がハイヒールでそこを通る。

「申し訳ありませんねぇ、この人がだらしないもんですから」

しばらくして今度は出社する姉も通る。

「あ、どうもすみません」

ヘコヘコ頭を下げて通過する二人を

「お構いなく、あとちょっとですんで。あ、そこ、ちょっとまだぬかるんでるんで、避けてこっち通ってください」

と堂々と対応するその姿はもはや職人。

「お母様、ここ、どうします?塀にも苔があるんですけど」

ヒョエー。これからまだ塀までやるというのか。

「うーん、どうかしら、そこはそのままでいいんじゃないかしらぁ」

「すぐ落ちますよ」

「うーん、どうかしらねぇ。今日のところは、いいわ。あんまりやってお疲れになってもいけないし。ありがとうございますねぇ。ごめんなさいねぇ」

そうですか、言ってくださったらいつでもすぐ来ますよと流石に引き下がる。

そのやりとりをエヘラエヘラと薄笑いしながら側で見ていた私を母が指差し

「本当にこの人がどうにもダメなもんでねぇ、ごめんなさいねぇご迷惑おかけして」

などと言い出すと

「いえいえいえいえいえ」

と彼女も否定しない。

二人はそこで同意し母は出かけていった。

雨は上がり、マシンの音も止んだ。

小鳥はさえずり、緑は美しく、庭のアプローチも見違えるように美しい。

「ありがとうごぜいます。ささ、お入りください、お茶をご用意してございます」

「あ、ありがと、じゃ、ちょっとお邪魔するわ」

シャワーを強くなんども勧めたが頑なに断り、せめて洗面所でというのも「汚れるから」と玄関でパンツいっちょになって着替えるのも職人。

この人は愛すべき人だ。

この人が家出してきたら絶対泊めてあげよう。