お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

浮かぶ声

朝9時。NHKあさイチがの画面がニュースに切り替わる。

さあ、時間だ。

・・・ちょっとまって、この苺ジャムトーストを食べ終わってから・・・いや、いかん、嫌なことは先に終わらせないと・・ええいっ。

思いきって携帯電話を取り上げ番号を打つ。呼び鈴が鳴る。頑張れ私。

なにをそんな悲壮な覚悟でやっているのかというと、ズバリ解約。

退院してからずっと飲んできたサプリメントをもうやめようと思ったのだ。担当医もこのサプリについてはご存知で「別に差し障りもないから御自由に」ご認証済みなのだが、昨日の朝、あ、アレもうやめようか・・と不意に湧いてきた。

ときどき、こんな直感みたいのが浮んでくる。

売り場で商品を見たから欲しいと思う場合は、自分に「ここに来なかったら欲しいと思わなかったでしょ」と言い聞かせ、買わない。そしてそのとおり、家に帰ったころにはすっかり忘れている。

反対に「こんなのが欲しいな」と服でも家具でも雑貨でも何度も何度も浮かんでくるときがある。そっちは本物。

夫との結婚もそうだった。

当時付き合っている恋人がいたにもかかわらず、同じ部署に配属された夫に対し、全く好みのタイプでもなく、寧ろ何をするにもいちいちイラっとさせる人であったにも拘らず「あぁ・・結局この人と結婚することになるのか・・・やだなあ」と思ったのを覚えている。あの直感が数年後にやってくる離婚したい衝動を思いとどまらせた。

息子が声優塾に通いたいと言った時も、こりゃめんどくさいこと言いだしたと、一瞬その想いをなんとか打ち消せないかと思ったが「この人にはすべてを飲み込んでやりたいことは全部肯定して全面的になんでも応援するという姿勢を貫いた方がいい」とまた浮かぶ。

心で戸惑い顔は笑って「いいんじゃない」と大金をかき集め、SNSで知りあった仲間たちとオフ会で池袋に行ってくると言われれば、信じきるしかないと「あらそう、夕暮れになるとヤクザもいるかもしれないから気をつけてね」と送り出した。

心に浮かぶ声。短く、パッと来て、消える。

その信号みたいな声に根拠も力もないと無視したこともあったが、その挙句、私は暴走し自滅した。

侮れず、心の声。

もう、そのサプリはいらんでしょうよ、というサインだろうか。あんなにお守りみたいに毎日欠かさず飲んでいたのに、そう言われると不思議と、そっか、もういらないかと手放す気になる。

呼び鈴が鳴る。ああ、ドキドキする。いきなりやめるっていうのは申し訳く言いづらい。

カチャとベルが止まり切り替わった。緊張。

「おはようございます。ただいま、オペレータに替わります。もうしばらくお待ちください・・」

機械音に一瞬ビクッとして、また緊張に戻る朝。