お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

あのおっさん

そして、熱を出し続けている。

日曜の朝、息子は朝から例によってアルバイト。5時に家を出た。

「かあさん、母さん」

声に目を開けると息子が覗き込んでいた。

「それじゃ行ってくるから」

普段からとりあえず私が寝ていても出かける時には声をかけて行ってくれと頼んでいる。いつもは起きた気配を感じながらウトウトしているので「あ、行くのね」という感じだが、今朝はすっかり状況が飲み込めていなかった。

ガバッと起き上がり

「なに?何?どこ行くの?今何時?」

「バイトだから。5時。・・・大丈夫?」

「・・・あ。あー・・・。そうか。ご飯・・」

「もう食べた。それじゃ行ってくるから」

そこからもう一回寝入って起きたのが9時だった。

夫は昨日、お初のゴルフで4時起きで宇都宮に行った。ほんとにもうと思いつつ、勝手に行けよというのも忍びなく、起きて簡単な朝ご飯を用意しながら洗いあがっている洗濯物を干していた。そこに夫が背後からじわんと寄ってきた。

「トンさん、あのさ・・ボストンバッグみたいなもの、ないかね」

はあぁ?

「もしかして今から荷造りするの?」

「うん。・・それが丸彦(←仮名。ここに本人の名前が入る)」

「・・・それって、遠足の日の朝に、お母さん、リュックどこって言ってるようなものじゃん。私が起きてこなかったらどうするつもりだったの」

「その時はその時なりに・・教えてもらって・・・それが丸彦。」

なんなのなんなのこの人は。なんという自己肯定感。一体どういう考えしてるのっ。

朝四時、よろよろ納戸に椅子を持って天井裏の奥からカバンを取り出す。

「これでいい?」

「あ、ありがとありがと」

そこからあれこれ本日の衣装やらお着替えやらを丁寧に選び始めた。この人はどんな究極な場面でも焦るということがない。良くも悪くも。それは時として私を大きく支えてくれるおおらかさなのではあるが、今は間違いなく私を振り回す。

四時半には家を出たいと言っていたのに。間に合わないではないか。

「朝ごはん、食べるのやめたの?」

「いや、食べる』

「だってもう間に合わないよ、4時15分だよ」

「大丈夫。食べる」

どう考えても私だったら無理だ。が、本人がこの後に及んでも食べるというのなら、ものすごい勢いでお腹に入れていくのかもしれない。

速攻で食べられるように、おにぎりをこしらえておいた。

4時20分。まだ二階でやっている。新宿で会社の人達と待ち合わせだっていうのに。遅刻したら置いてかれちゃう。新しく入ったところでの集まりだから迷惑かけないようにした方がいいのに。

だんだんこっちが気持ち悪くなってきた。

側で息子は自分のペースで食事を済ませ歯を磨いている。

「あれは、間に合わんな」

そこに二階から降りてきた夫が「ちょっとどいて。顔洗わせて」と洗面所に割り込む。

「なんだよっ、どかねーよ。」

「ヒーン。ごめ、ごめっ。ちょっと、やらせて」

時、すでに4時45分・・。

気持ち悪い・・。

「間に合わないじゃん、大丈夫なの?」

するとなんて仰ったと思いましょう。

「え?あ?だいじょぶ大丈夫。あれ、念のため早めに設定した時間だから。次の電車でも間に合うんだ」

ええっ?

すると息子が

「次って、次は5時21分までないぞ!」

「うん、そうそう。それでも間に合うから」

それからゆっくりおにぎりとヤクルト、漬物を召し上がり、ホッペを光らせて玄関に立った。

「じゃあね。楽しんでくる。頑張ってくるね」

「楽しんどいで。で、夜はどうするの?」

この男、まさかの翌日大阪での資格試験のために宇都宮でシャワーを浴び、東京に戻ってそこから深夜バスで大阪に向かおうかと言っていたのだ。

「あ。あれね。やめた。一回帰ってきて、お風呂に入ってからまた行くことにした」

「ご飯は」

「うちで食べる」

・・・・。

「じゃ、いってくるね」

嬉しそうにホッペを光らせ出ていくのに手を振り見送った後、窓を閉めているところに息子がやってきた。

「母さん、言いたいことはちゃんと口に出したほうがいいぞ」

「そだね・・・。・・・・もうやだあのひと〜っ!」

 

というわけで、熱でぼんやりした頭で迎えた日曜の朝、ハムチーズトーストとオムレツにスイカが美味しい。。