お疲れでプチ喧嘩 その2
やっちゃったなぁ。送り出してからも気が沈む。
でも、我慢するのはやめたんだ。いいんだこれで。
でも、いつもなら怒らないようなことに突っかかったのは疲れてたからだ。でも、いいんだ。たまには。
気が晴れないので朝食前に散歩に出てみたが、頭の中は、でもでもでもでも・・とそればかり。
夫に話そうかな。夫ならきっと笑って「まあまあまあ。トンさん悪くない、気にするな」と言ってくれる。時計を見ると始業前の8時。出社して慌ただしい微妙な時刻だ。迷惑だとは言わないだろうが、迷惑だ。
自分を肯定してくれる言葉を求めて電話をするだなんて、私好みの私じゃない。やめよ。
その辺からだった。異変が現れた。お腹が痛い。冷えたか。今日は短いコースで切り上げようと思っているうちに、意識が朦朧とし、まっすぐ歩けなくなってきた。やばいやばい。こんなところで、座り込むわけにもいかない。こんな格好で救急車でも呼ばれたらえらいこっちゃ。目の前が暗くなったりチカチカしたりするのを、必死にこらえ、ひたすら根性で家に引き返す。やっと辿り着くと、コートと鞄をフックにひっかけ、すぐにガスファンヒーターの前に横たわった。
とにかく家に着いた。
お腹がすいていて気持ち悪いのか、どうにもならない眠気で気分が悪いのか判断がつかない。とにかく、寝るのだ。
目が覚めた。パンを焼いて食べた。そこからはじまる第二章。今度はお腹が壊れた。水を飲んでも、トイレに駆け込む。脱水状態になって頭がぼんやりしてきたので、梅干し番茶を飲む。いっとき、シャキンとするが、また、駆け込む。今日はだめだと、観念し二階の寝室で休むことにした。
寝ても寝ても寝ても、まだ眠い。番茶をのみ、トイレに駆け込み、寝る。途中、母が「お歳暮の相談があるんだけど、お時間のあるときいらして」とラインをよこすが、無視して寝た。
これは本当にダウンのようだ。二時半頃目が覚め、半分寝間着のような格好にダウンをひっかけ薬局にいき、経口保水液のゼリーを山ほど買った。それからスーパーに行く。せっかくだからこんなときこそ、好物のものを食べてやろうと考えるところが私の意地汚いところだ。
カットスイカのパックを二つ、甘食、クリームをはさんだワッフル、プリン、おかゆ、梅好み、お菓子のおっととを、相変わらずの朦朧とした状態でわっさわっさと籠に入れる。その姿は旗からみると鬼気迫る異様な光景であったことだろう。
リュックに体調を崩したときのお助けグッズとお楽しみの食べ物をたんまりと詰め帰ってくると、保水液を飲み、スイカと甘食を食べ、また寝た。
目が覚めると今度は7時だった。息子はまだ帰っていない。体調は相変わらずだった。これは・・ポカリかも。
脱水だけではなく、糖分の補給が足りていないのかもしれない。入院する前、こんなことがあったとき、最終的に速やかに効いたのはポカリだった。iPhoneから息子にラインを送る。
「ポカリ、買って来て」
これで伝わる。喧嘩のわだかまりなど、言っとる場合ではない。
「了解」
向こうも察知したようですぐに返信がきた。
「どうしたよ」
息子に起こされた。手にはビニール、中にはポカリスウェット500mlが二本、入っている。地獄に仏だ。
「だいじょうぶかよ、ほれ」
キャップをまわし、あけてもらったペットボトルをごくごくと一気に半分飲む。染み渡る。脳に身体に糖分とその他なにかの大事な成分がすうっと入っていくのがわかる。
「ありがと。やっぱこれだ。経口保水液買って来たんだけど、違った」
「ポカリってきたからさ。・・俺の夜ご飯は自分でやるから」
「昼間ポトフとピラフ作ったから、ウィンナー入れて温めて食べてよ、私、もう少し寝るわ」
いくらでも眠れる。ガンガン頭は痛く、吐き気もして、お腹はピーピーなのに、しんどいときに眠れるベッドがあること、布団があること、ポカリがあること。満たされていた。
9時過ぎに、降りて行くと息子は夕食をすませ、せんべいを食べ、鼻歌まじりでiPadを眺めていた。
「よ。大丈夫か」
「お騒がせしました。なんか食べる」
おかゆとおっととと、スイカ。二ツ入りのワッフルは息子に一つあげた。
「うまいな、これ。朝さ、態度悪く出てってごめんな」
「あー。あの辺はもう、それどころじゃなかった」
めいっぱい、プンスカそれどころだったが、あの時点ですでに具合が悪かったことにした。
「でさ。朝、あれ、なんで怒ってたの?俺が風呂昨日入らないで、今朝はいったから?」
ひょえぇ。
「ちがうよ、前の晩、お皿を頼んだら・・」
「あーあれね。あれかぁ!ごめん、忘れてた!」
「ゴミ出すのもなんで俺がとか言うからムカっときたんだよっ」
「あ〜。そうかそうか。あれねぇ。ごめんごめん」
なんなんだ。朝のモヤモヤを返してほしい。
「おっとっと、俺ももらっていい?」
「いいよ」
「今日は食べたら早く寝なさい」
へーい。