お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

言わないでと言ってみた

母と話していると

「あなた根回しが下手なんだってわかった」

と言われた。

先日の家族の揉め事の要因は私が事前に息子と夫を誘導していなかったからだという。

おっしゃる通りだ。

私はあらかじめ、これこれこういう話が今持ち上がっているよ、それは近いうちに実行しようかということになっているよ、とそれでもちょいちょい会話の中に入れ、息子の様子を見ていたつもりだった。そのときは「ふーん」程度の反応だったので、ああ抵抗ないのだなと捉えていたが、それが甘かった。全員揃ったその場で異議を唱え強い口調で抵抗した。

「そもそもさっきからばあちゃんひとりで喋ってるじゃなないか、もしネエネも母さんもそうしたいならもっと二人が話せばいいのに、ばあちゃんだけが話を進めようとしている。俺は賛同できないし、その必要性が今の段階では理解できない」

それは私もびっくりするぐらい容赦無く、理論だった物言いだった。

すると夫も息子の肩を持ちはじめ、その場はみごとにピリついた。

母の言い分としてはそもそも、この話し合いの場に連れてくるまでに私がもっと二人を納得させておくべきだったのだということなのだ。

おっしゃる通り。

私はそんなに何度もこの話を持ちかけなかった。あんまりいうと、うるさがられるのが嫌だったからだし、決まったこととして納得しろという意思もなかったからだ。

「そいうとこ、バカっていうかダメなのよ」

「バカとかダメとか言うな〜」

バカとかダメとか言わないで。

家族に根回ししてなんとなく丸め込んだまま、物事進めることはしたくなかったんだ。

揉めて良かったと思ってるよ。

あの場で自分の意見をぐいっと言ってのけた息子に驚きもしたけれど、ちょっとホッとしたよ。

胸の内までは声にしなかったが、バカと言わないでに、何も考えなく二人を強く誘導しなかったのではないという抵抗も込め声にした。

あぁ。

思えばあなたはずっと根回しをしてたんだ。良かれと思って。

そこに気がついたのが今かと思うと自分で呆れる。

「バカって言わないで」

「だってバカなんだもん、お姉さんとも言ってたのよ、ありゃダメだ、あの家は母さんがバカだからって」

「二人がそう思ったからって、私にそう言わないで。言われたら本当にバカなのかもしれないって思う」

「だって本当にバカなんだもん」

ムムム。

バカって言わないでって初めて言った。

それでもバカって言われたのに、なぜだろう、ちっとも悲しくないし、恨みもないし、すっきりした気持ち。

なぜかしら。

念押しまでされたのに。

ああきっと・・・。

私が私を庇ってやったから。ちゃんと、声に出して。

言ってもどうせ変わらないと思って黙っていたが、相手は変わらなくても自分に響く。

私が「俺の魂をいじめるなっ」と声に出してやったから、心の中の私が「わーい、わーい」と喜んだんだ。

じっとこらえるのって私に「いいから我慢しなさい、とにかくあなたは我慢しなさい」ってやってることなんだ。

ごめんよ。私。

もう、やらないよ。