有難き平和な週末
夫の荷物整理はやはり圧倒的に収納場所が足りない。
「ちょっとみにきてよ」
得意になって言いにくるので二階に上がっていくと、小さな本棚に入り切らず、ただひたすらその上に積み上げられていた。「見に来てよ」というのは片付いた美しい部屋ではなく、この技術を駆使してそびえ立ったタワーの出来なのであった。よく見ると確かに、ところどころ板やファイルを絶妙に組み重ね工夫されている。
「これ危ないじゃん、寝てて倒れてきたらどうするの」
ベッドのすぐ足元に置いてある本棚には耐えきれないほどの本の山が乗っかっている。気の毒に必死になって耐えてはいるが地震でもきたら、あっという間に崩れるに違いない。
「ダイジョーブなの、これ、ほら、ちゃんとしっかりしてるんだから」
「だめだよ、いっつも私に危機管理とかリスクマネジメントとか言ってるでしょ」
「でもこれは大丈夫なんだもん」
「・・・じゃ、もし、ちょっとでも崩れたら一回につき1万円もらう」
「わかったわかったわかった!ちゃんとするから!」
そこに隣の部屋から息子がやってくる。
「なんだなんだなんだ、喧嘩はするな?仲良くしろ?」
「これ、見てよ」
「あ・・・こりゃダメだ、本棚、買え。俺は自分の小遣いでこの前買ったがな。自分の稼ぎでな。ハッハッハ」
結局それから二人で山を取り除き、臨時の収納ボックスに移し替えまた、廊下に積む。
「あ、これはすぐ使いたいやつだから手元に置いておきたいんだ」
あ、そうなの。じゃ、ここがいいね。
「あ、これは大事なの」
あ、そうなの。・・・・ん?
「大事ってこれ、サッカーの雑誌じゃん。」
「大事なのっ」
「仕事のじゃないからいいでしょ。すぐに本棚買うから。いっときのことだからさ」
下の段に置こうとすると抵抗する。「あ、これもすぐ使うから」溜まりに溜まった新聞。切り抜きたい記事があるらしい。半年分はあるんじゃないだろうか。
「あ、それは・・なんだったけ・・・あ、そうだ、お守り。これ大事なの」
シャラシャラいう袋の中を覗いてみると、息子が小学生の頃夫に買ってきたキーホルダーや出張のたびに作って渡していた手作りのお守りが入っていた。これはたしかに捨てられない。
が・・・シャラシャラさせていたのはこれらではなく大量のクリップだった。両手にこんもりと盛り上がるほどのゼミクリップの合間にキーホルダーやお守りが埋まっている。それを取り除こうとすると
「ダメっ、これは捨てないのっ。お守りだから」
「わかってるって。大事なんでしょ。・・で、キミはクリップもお守りにしとるのかいな」
「あ、それね、それあげる。まだ使えるから。資料作るときに買ったんだけど余った」
使っていない電気の延長コード、サランラップ、忘年会で当たったマッサージグッズ、ラジオ!。
そこに置くには不釣り合いなものを取り分け、一階に持って降りる用の箱に入れる。
山は30センチほど小さくなった。
「なんかすごく綺麗になったね」
喜ぶ夫。ぐったりする私。
「箱、これで全部?もっとあったでしょ?ひょっとしてトンさん、一人でかなりやってくれた?」
えぇっ?今頃ですかっ!!
「やらせていただきました・・・」
「大変だったでしょー。ありがとねー」
「大変でした。大変だったと言いました・・・」
「ありがとねー」
オイコラ。晴れやかにしているがまだ終わっていないのだぞ。今日はとりあえずここまでなんだからな。
この床に積まれたものたちをまだまだ収納するのだ。新聞束を切り抜くとかいうじゃないか。嬉しそうにベッドに寝っころがっているが・・おいっおいっ。
「あ、そうだゴールデンウィーク、僕忙しくてなんの予定も立ててないんだけど、みなさんのご予定はどんな感じ?トンさん、ごはん何時?ぼくちょっと疲れちゃったから、それまで寝るわ」
おーいっ!!