お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

それぞれのおこだわり

昨年末に亡くなった祖母のお墓詣りに行った。

母と二人、1時間ほど電車とバスを乗り継ぎ行く。

渋谷でお寿司かお蕎麦を食べてからいこうと言うのを「ここで良いじゃない」と地下のコーヒーショップで厚切りチーズトーストを並んで食べた。

ふと見ると、トーストの耳の部分だけ、外して皿に積み上げている。

そうだった。この人はパンの硬いところは残す。サンドウィッチも、トーストもそうする。パンは柔らかくてフワフワしていないといけない。トーストは中の白い部分にバターやチーズがたっぷり乗っているのが好き。クロワッサン、デニッシュが好き。

「だって口の中がモサモサするんだもん」

ベーグルや全粒粉のパンのように噛めば噛むほど味が出るようなものが好きな私は、積み上がった耳が気になる。

トーストは耳が一番美味しいんだよ。

「ちょっと頂戴」と以前、何度かもらおうとしたことがあったが、「およしなさいっ、汚い」と、ものすごい勢いで残飯に手を伸ばしたことをたしなめられ恥ずかしかった。それ以来見て見ぬ振りをしている。

母は話しながら自然な手つきで紙ナプキンをその上に広げて被せた。

自然な手つきをしながら、彼女のもパンの耳を隠すことに意識は集中している。

慌てて視線をそこから外し、こちらも気がつかないふりをして相槌を打つ。

あ、触れた。

紙ナプキンがパンに接触したその瞬間、耳は残飯になってしまった。

あぁ・・なっちゃった。

私の意識もそこに集中している。目は自分のコーヒーカップに向いている。

「さ。行きましょうか」

「そうね」

何事もなかったように席を立つ。

短い二人の「むむっ」の時間。