息子に頼むとき
「おはよう」
ちょうどいいところに息子が起きて降りてきた。
「おはよう。これ、ちょっと干してきて」
水を吸った衣類は重い。風呂場の入り口にひっかけていた、洗い上がったばかりの洗濯物達をはずし、差し出す。
「なぬ」
機嫌がまあまあのとき、気乗りしないことを頼まれるとこう言う。この場合、押せばやってくれる。ちなみに機嫌が悪いときに頼むと「なんで俺?」とあからさまに嫌な顔をして、どうなだめすかしてみても決してやりはしない。
「うれしいわぁ。その『なぬ』が聞けて。はい、よろしくお願いします。その間に本来なら自分で作るはずの朝ご飯、ご用意させていただきますから」
寝ぼけと空腹のわけのわからぬまま受け取った。
「しかたねぇなぁ」
トボトボとまた二階に引き返して行った。
「よろしく、あ、広げて。こう、等間隔に広げてくださいね」
夫に頼んでも息子に頼んでも、ベランダの物干し竿の一カ所に、持って上がったハンガーをそのままごそっとまとめてひっかける。
長い物干し竿に、適当に間隔をあければ、風通しもよく乾くと思わないのだろうか。持って行ってねといえば、持って行く。置いといてね。といえば、置いておく。
息子に風呂の水を抜いておくよう頼んだら、蓋がすこしずれ、そこから栓のついたチェーンだけが浴槽から飛び出しぶらさがっていた。
次のとき
「お風呂の栓をぬいて、蓋をそれぞれ三つ離してたてかけておいて」
と頼むと
「そんないっぺんにいろいろ言われてもわからない」
とめんどくさがる。
お風呂の蓋を抜いて蓋を三つ離してたてかけて、それから、浴槽洗って、洗ったスポンジはしっかり水を切って、洗剤と一緒にもとあった場所にもどしておいてね
というのはもはや複雑すぎてできないとでも言うのではないだろうか。
「はっはっは。やってやったぞ。均等にバランスよく広げて干してきてやった」
二階から得意げにおりてきた。