お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

鼻歌なんていつ以来だろう

白状いたしましょう。

昨日はなんだか、あっけない展開と、さっさと独り立ちの意思表示をしてきた息子に、なんだか足元が不確かな1日でした。

フワフワフワフワ。

2時過ぎ、バイトから帰ってきた息子、「今日から俺は勝手気ままにやるぜ」の意思表示のように、張り切って昼ごはんを買って帰ってきた。ホットドックにサンドウィッチ。用意していた昼ごはんを思わず隠す。

義務じゃなくなった食事の支度がなんだか急に張り合いのないものにも思う。

あれ。これはうろたえているのか。

狼狽えている自分に狼狽える。

すがるものか。追うものか。

二度目にやってきた「ひとりでできるもん」。うまく離陸させたい。

自分が母の元を離れるのにあれほど苦しんだのだ。あれを無駄な経験にはするまいぞ。

それでも白状いたしましょう。

昨夜は寂しさのあまり、夜遅くまでお菓子をボリボリ食べ、ワインを飲んで寝たのでした。

 

しかし。

一夜明けて今日。負けず嫌いの私がムクムクと蘇る。

アルバイトのある朝だと言うのに息子は起きる気配がない。声はかけるまい。

一人でやるがよい。

やがてドタバタと家中を駆け回る足音がして、しばらくすると私の寝室のドアが開き

「じゃ、いってくるから」

「あ・・バイトか。いってらっしゃーい。気をつけてね」

いかにも今起こされたかのように寝ぼけ声でベッドから見送った。

さて。

まずは自分のために朝食を作る。

玉子にほうれん草に塩とミルクと粉チーズを入れてオムレツ。

全粒粉のパンをグリルで焼いて、トマト、ブロッコリー、ハム。

それにバナナ。

玉子を割る音。混ぜる音。フライパンに流し入れ音。

自分のための音と手間と時間と匂い。

出来立てをお盆に乗せて運ぶ。

丁寧に作ったあったかい食事を食べたら満ち足りた。

それから自分の寝室をとことん綺麗にした。

まずは私の私だけの居場所をしっかりこしらえよう。これからはここで過ごす時間を増やしていくのだ。居心地のいい、自分だけのお気に入りの場所をこしらえよう。

窓を拭き、床を拭き、机を南向きにして、ホットカーペットの向きを変え足元も暖かく。オーディオと本棚は机に向かっていながら手の届くところにした。

なんども机に座り、ああでもないこうでもない。

初めて自分の部屋を手に入れた子供のようにいつまでもいつまでも時間を忘れ、気にいるまで何度も何度もやり直した。

勢いづいて、風呂場、トイレ、台所、玄関を掃除。

家族のためでない。ここは私の家だ。ピカピカにしよう。

換気扇を外して、風呂の蓋を洗い、グリル周りのタイルを磨く。

暮れの大掃除がこんなに楽しいのはいつ以来だろう。ラジオからは「今、年賀状を書いています」「今、窓を拭いてます」「今、帰省する車の中です」、リスナーの投稿が聞こえるとそれぞれの家庭が浮かんでくる。

鎖が外れたのは、私の方かもしれない。

軽い。

重くのしかかっていた責任や気負いに勝手に縛られていたのは私自身だったのか。

気がついたら鼻歌を歌っていた。