枕
母が来ているところにちょうど、宅急便が届いた。
先日私が通販で買った枕だった。着払いで6800円。私にしては奮発したのだが、夫の単身赴任荷造りの際、自分用に買ってあった新品の枕を取り合えずにと入れた。
それ以来、買おう買おうと思いながらクッションで代用しているうちついに、朝起きると肩と首がガチガチに痛くなるようになってしまった。
枕だけは試してから買いたいと粘っていたが、時間も体力もないので暇を見てはネットであれこれ探していたのだが、どれもピンとこない。そんな折、禁断の真夜中のテレビ通販番組で偶然目にしたのがこの「整体師が考案した枕」だった。あれほどどれを見ても納得いかなかったくせに、すっかりその商品の良さの説明にやられ、その場で携帯電話のネットから注文したのだった。
通販番組で即決購入すること自体初めてなのだがなぜか「これだ!」と、まさにビビビッときてしまった。
それが、今、届いた。よりによって母のいる目の前でくるとは。
「着払いで6800円になります!」
宅急便の兄ちゃんは元気よく大きな声で値段も筒抜けに言う。
何も悪いことをしているわけではない。わざと落ち着いたようすでこちらも大きな声で
「はい、ありがとうございます。お世話さまでしたぁ」
と受け取ってみせる。
「なに?」
それきた。
「枕。買ったのよ。あんまり首が痛いからちょっといいのにしたの」
テレビ通販とは敢えて加えない。
「この間買ったじゃない、あれはどうしたの」
「旦那さんに持たせた。」
「今までは何使ってたのよ」
「クッション」
納得いっただろうと思っているところに得意気にこう言い出した。
「枕ならお母さんの使ってる枕、すっごくいいわよ。ちょっと高いけど。お姉さんに買ってあげようかと思ってたくらいだから。すごくいいのよ、あなた、ちょっと今うちにきて、頭のせてごらんなさい!」
すでに立ち上がっている。
「いや、いいわよ。だってもう、これ買ったんだから。今更こっちがいいとか言われても、もうこれがよくてかったんだから」
「どこの枕よ」
言えん。TV shoppingで夜中に衝動買いしたとはとても言えん。
「・・・整体師さんが作った枕」
「・・あ、そう。じゃ、いいわね」
あっさり引き下がり、またしばらくお喋りをして帰っていった。
即、箱を開ける。
おお。出てきた。これだこれ。立体的な特殊な形をした白い枕が顔をだす。
その場で頭を乗せてみる。瞬間、大丈夫だろうねと不安がとよぎる。
うぉおぉぉぉおおお・・・。
こ、これは・・。
誰かに頭を両手でそっと支えてもらっているような、包み込まれるような安定感。
いつまでも寝ていたい。ずっとこうしていたい。
あぁ。買ってよかった。1日の終わりにこの枕が待っていてくれるかと思うとなんでも頑張れそうな気がする。
よかったぁ・・・大当たりだ・・・。
あんまりの気持ちよさに母を呼びもどし「あの枕最高」と体験させてやろうかと思ったが「お母さんのだってね」と言い出すに決まっているので面倒だと思い、やめた。
そしてまた、リビングにダンボール箱やら説明書やらを広げたまま、枕に頭を乗せ、寝っ転がったまま目を閉じた。