目にも留まらぬ早業で
「そういや母さんにああしろこうしろって怒られたことないな、俺」
いかにも自分は手のかからない子供だったと言わんばかりに息子が言った。
「だってその前に自分で決めて説得だけしにくるから言う間がない」
「わっはっは。人生の大事な節目はすべて自分で決めてきたからな。勝手に決めて勝手に間違えて、勝手に修正してるけどな」
学科変更のことを言っているらしい。
「大きな声だすのは心配なときだよ、起きなくていいのかとか寝なくていいのか・・・そこで寝たら風邪引きますよとか」
「ふむ。もはやそれすらも必要ないのだがな」
「嘘付け。じゃあ今朝までフロアクッションに寿司ネタみたいに乗っかって寝ていたのは誰じゃ」
いくら声をかけても眠りに落ちたままだった。
たった今、シャワーを浴びて出てきたところで、遅い朝ご飯、兼、昼食。
「それは残像」
「へ?」
「見たと思っているそれは残像だ。そのとき俺はもう二階にいた。あまりの早さで行ったから見えなかったのだな」
もっともらしく頷いてみせる。
そうか。
あれは残像だったのか。
妙に納得。