お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

午後はずっと話を聞いていた

昨日今日と、母と共に家の事務仕事をしていた。

合間合間に休憩でお茶をするのだが、ちょいちょい、恨み節が口をついてでる。

姑の悪口と、私がいかに姉に比べて育てにくい子供だったか。

これが交互に途切れず繰り返される。

「困った子を産んじゃったって本当に思ったわよ」

と私に申されましても。

聞きながら若い母が自分の思う通りにならない子育てにイライラしている様子が浮かぶ。それは今の私よりずっと若く、幼い女性だ。

肩に力の入った大真面目な彼女。ユーモアで笑い飛ばす余裕もなく、必死に奮闘している。夫は高度成長期で毎晩接待で遅い。姑は高学歴の自分の子供達が自慢で息子の嫁の学歴は気に食わない。だから彼女は姑の鼻をあかしてやるためにも子供にいい学校に行かせたいのに下の娘はなにをやらせても冴えないうえに身体が弱い。頭を悩ませる。

やがて、浮かんできたのは分娩台で私を産もうと苦しそうな表情の彼女。

そうだ。

私はこの人の力を借りてこの世に出てきたんだった。

ずっと昔、この人の身体の中に住んでいて、養分をもらい、外の音を聞いていた。あったかくで安心な部屋のなかで。あれはこの人の中だったんだ。

目の前に座っているこのおばあさんの産道を通って出て来たんだ。そしてその日からは、この人が食べさせてくれ、身体を洗い、服を着せ、社会のきまりを教えてくれたんだっけ。病気のときは夜中に様子を見に来てくれて。

そりゃうんざりもしたろう。投げ出さずよくやってくれた。

長い長い母の話を聞きながら、私の目の前にいたのはなぜか20代の若い娘っこだった。

「よくやってきたねぇ。ほんとに。」