白いスープ
冷蔵庫に残っていた野菜をあれこれ構わずとにかく、たくさん入れてスープを作る。
生姜、白菜、舞茸、プチトマト、ごぼう、じゃがいも、人参。それと豚肉の切れ端とコンソメ。
このところ暑さに負けて、チャチャっと炒めたり、作り置きの使い回しに冷奴やトマトと、その場しのぎの食卓が続いている。
このスープもまさに「その場しのぎ用」なのだ。
食欲がないときでも、とりあえずこれを飲んでおけば、あとは白いご飯でもパンでもクラッカーでもいいような気がする。息子にはこれと焼いたお肉に納豆や、それこそ、切っただけのトマトでもあれば、とりあえずの食卓になる。
野菜を切って鍋に入れてコトコトさせ始めると、生姜の香りが台所に広がった。
風邪をひくと決まって母が作ってくれたうどんがある。
元々は、結婚した当初、風邪をひいた父が母に塩味のスープでジャガイモと人参とネギと生姜と豚肉が入ったうどんを作ってくれと頼んだのが始まり。
「それまでそんなの作ったことなかったけど、作れっていうから。お父さんがいつも作ってもらっていたんじゃないの」
若かった母は手探りで作ってやったそうだ。
しなうどん。それが実家での通称。支那ではなく、品々に適当に入っているから「しなうどん」。生姜と豚肉、ジャガイモ、長ネギは必須。キノコや大根なんかを入れ始めたのは私が結婚してから。実家ではいまでも基本に忠実なもの母と姉が作っている。
結婚して夫が風邪をひいたときにこれを作ったら
「色が薄いね」
と言われてびっくりした。家庭で作る饂飩と言えば、どこの家でもこれだと私は思い込んでいた。夫は夫で、早くに母親と別れ、父子家庭で育った人なので、饂飩と言えば、醤油味のもので、お店に行って食べるものだと思っていたのだった。
元気な時は醤油だしのうどん。風邪の時は白いスープのうどん。
それがうちのなんとなくの、なんとなく。
生姜と豚肉とジャガイモの入ったスープが懐かしい匂いを台所にさせている。
トマトは出汁になるというから一緒に入れたが、死んだ父にこれを出したらきっとムッとして
「これは違う」
というかもしれない。