その日は突然に ①
その日は突然やってきた。
本当になんの予兆も前触れもなく、ある朝突然に。
昨夜息子とちょっとした揉め事があった。題してサンタは居るのか居ないのか。
正確に言うと「俺のところに来ていたあのサンタは、要するに母さんたちだったんだろ」事件。
息子のサンタ事情は徹底していた。まだ幼稚園のときから、やめ時を意識し
「うちは君が生まれるときにサンタさんと中学生まででいいですって約束したからそれまで来てくれるよ」
と言ってあった。
そしてそれまでは徹底してサンタワールドを導入した。
ウェブでサンタさんは今どこにいるかと追跡できるサイトを見せ、もう出発したねと一緒に盛り上がり、仲のよいママ仲間と連携して、クリスマス間近になにか困らせるようなことをすれば2人で即、携帯を取り出し
「サンタさんにメールするよ」と迫った。
電話だと、変わってくれとか、なんて言ってたかと追求されるのでメールなのだった。メルアドは希望した母親だけが教えてもらえることになっていて、基本、サンタさんは忙しいので返信はこない。そしてアドレスを教えてもらう代わりに母親は毎月一回、子供の成長と今何に興味をもっているのかレポートして送る義務があると教えた。
このママ友は小学校を卒業すると越して行ってしまったので彼女がその先どう収拾をつけたのかは知らないが、我が家では息子がすっかり信用しているので、約束通りきっちり小学生でサンタは来なくなった。中学になると私が選んだクリスマスプレゼントを夫と息子に手渡すようになり、お互い核心にはふれずここまできたのだった。
それをなんの話の流れか、昨夜息子が急に蒸し返す。
「要するにあれは母さんの仕業だったんだろ」
夢のかけらもない。無粋な奴め。私は今更「実はね」と言うのもなんとなく嫌だった。あれはあれで、私のメルヘンの玉手箱にしまった世界だ。こんなところでほじくり返して汚されたくない。
私は知らないよ。サンタは居るよ。あの人は信じている人のことは大人になっても見守っているんだと突っぱねた。
親が意地っ張りなら子供も頑固。そこからクドクドネチネチとしつこくなかなか食い下がらない。
「知らないよっ。うるさいな!いるんだよ、お母さんには今でもいるんだもん!」
「なにくだらない意地張るんだよ。真実はこうだって知ったうえでそういう文化を楽しむもんだろ」
もう、こうなるとどっちが子供でどっちが大人だかわけがわからない。
だけど絶対にサンタは居るんだ。いないなんて。いないなんて。
私はサンタさんの代わりを務めただけなのに!
「もう・・ごちそうさま」
息子はムスッとしたまま部屋を出た。
私も面白くない。一人でお菓子をボリボリ食べて二階に上がり、さっさと寝た。
そして、今朝。その日は突然やってきたのだった。
(その②に続く)