陰気な朝になるかどうかの分岐点
今朝、性懲りもなく息子が一階の床で寝ていた。
三日連続である。
昨夜、9時。
「そろそろお風呂はいったら?またそのまま寝ちゃうよ」
「わかってる、まだあとで」
10時半。
「もう入った方がいいよ。いつもここがデッドラインなんだから。」
「だいじょうぶ。今夜はちゃんと上で寝るから」
そのまま私は先に寝る。
「じゃあちゃんと入るんだよ。」
「わかってるよ!失礼だぞ!」
「・・・ほう。そこまで言うからには明朝、またそこに転がっていたら間違いなく私の逆鱗に触れるぞ。予告する。母は本当に怒ったらご飯、作るのやめるからな」
「入るし。はいはい、おやすみ」
で、これだ。
あのやり取りがあった翌朝だけに「ほれみたことか」と腹が立つ。
ちゃっかりガスファンヒーターをつけて暖をとっているところがよけい腹立たしい。
無言でヒーターを切り、無言でカーテンを開け、シャッターと窓を開ける。その音と気配で目を覚ましたのをあえて無視して台所に立ち、昨日の肉じゃがを温めなおし、おにぎりを握る。
怒りのエネルギーで身体がよく動く。洗濯機をしかけ、風呂の水を抜き、流しにあったコップを洗う。
すすぎながら、荒々しい自分がムクムクと出現していることが嫌になり、これ以上増長しないよう、意識して丁寧にコップをおいた。
息子がのそのそと、背後に立った。ふん、知るものか。
「おはよう・・・」
こっちの出方を探っている。
ムスっとした声を出すか、どうするか一瞬迷う。
「おはよー」
ご機嫌でもないが、不機嫌でもない穏やかな声で返事をした。
「一階でやってしもた・・ごめんな」
「いいからシャワー浴びといで、時間ないよ」
許されたと思った息子は「ごめーん」「もう、やらない」「気をつけるから」と鼻歌を歌いだす。
あそこが分かれ道。
あそこの「おはよう・・」に、気分そのまま「・・・・。」と返事をしなければ向こうも意地を張る。悪かったなと思っているうちに、謝りやすいとっかかりを作ってやらないと、こじれる。
風呂から出て
「でました。さっぱりしました。あ、ご飯これ?」
すっかりいつもの調子で話しかけてきた。
「まさか、今、このタイミングで、私といつものように軽快なトークをしようと思っているわけじゃありませんよねぇ、なれなれしい」
ちょっと待て。いい気になるな。もうしばらく慎みなさいと嫌みのひとつは言っておきたい。
「えー、しようぜ、軽快なトーク。俺たち仲間だろう」
「仲間だよ。今、だれかが息子を傷つけにやってきたなら全力で守るよ。しかし、ありがたいことにそんなことは起きちゃいない。仲間であろうとなんだろうと、距離を置くときは置く」
「距離置くなよぉ、仲間だろう」
「我らが本当に仲間かどうか、今夜、見せていただこう」
まかせろと、肉じゃがをたいらげ、ご機嫌で出かけて行ったが、実のところ母は、今夜も怪しいと睨んでいる。