お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

間違い電話

夫に間違い電話をした。

携帯電話の履歴に夫からのがあった。履歴時刻は1分前。なんだろ。急ぎの用事かとすぐ掛け直し、途中で気づいた。あ、これ、私の方からかけた履歴だ。

知らないうちに誤操作でかけてしまったらしい。

慌てて切る。

履歴には私から夫に1分おきに2件、電話をした記録が残った。

すぐ、かかってきた。

「どしたの?」

「あ、どうもすみません、妻ですが、間違えまして」

「あ、なんだ、そうなの」

相手が職場だと思うとベラベラ話し続けるわけにもいかないし、そうかと言って余韻なく切るのも温かみにかけるような気がしてつい

「今、どこなの」

と馬鹿なことを聞く。

「え、会社だよ」

そりゃそうだ。

「なんか変わったことない?」

「何もない。ほんと、間違えだから。あ、あったといえば、昨日、息子がお風呂で転んで瞼に擦り傷作った」

勢いよく湯船から立ち上がったとき、のぼせてくらっとし、そのまま洗い場で転んだ。指先が瞼にぶつかって、1ミリほどの点の傷ができたのだった。

びっくりしたのと、一瞬でもくらっとしたことが初めてだったのと、痛かったのとが、引き金になって、テストの不安でもやもやしていた心をパーンっと弾いた。

大きな声でオンオンと泣いた。熊の子供のようだった。

19になった息子がまだそんな泣き方をすることに驚いた。

初めは「ちょっと転んだくらいで大げさな」と思っていたのだが、いつまでも激しく泣きじゃくる息子を見ているうちに、よほど一杯一杯だったのだなぁと気がついた。

素っ裸でタオルをお腹に巻いて、汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら、突っ立っていつまでも泣く。

あんまりいつまでも泣くので、園児の頃のように頭を撫でて、ポンポンと叩いた。

「落ち着いたかい。じゃ、食べよう」

泣きじゃくりからヒックヒックになった息子との夕飯だった。

それを言おうと思っていたわけではなかった。けれど、つい、言った。

「怪我したの?病院行ったの?」

いや、本当にそういう怪我ってほどのものでもないから。

保険がおりるからちゃんと医者に行くようにという夫にホント、大したことないからと説明しながら、恥ずかしかった。

「ま、じゃぁ今夜にでも電話してみるよ」

「そうしてやって」

電話はそれで切った。

きっと、今頃夫は、なんだ、息子のかすり傷ごときで電話してきやがって・・・と解釈しているにちがいない。

違います。

でも、ま。

今夜電話してくれるというのを聞いて、意外と私が落ち着いた。