お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

金柑の花

朝。今日は歩けた。歩けるってありがたい。

足だけは長く使えるようにしておきたい。

散歩から戻り、鯵の干物を焼く。魚の焼ける匂いでたちまち台所に朝の活気が広がる。

ゴミをまとめて出しに行ったついでに、勝手口の脇の金柑の木から落ちた花殻が道に散らばっているのを掃く。めんどくさいが、どう見てもウチがだした白いカス。

ひと月ほど前は黄色い実が落ちて、転がって、そこに車や自転車が通って行くものだから、アスファルトに潰れた金柑の実がグシャッと押し込まれ、道を汚した。毎日慌ててほじくって集めて捨てた。

「おはようございます」

振り返ると名前をしらないけれど、よく犬の散歩で通りかかるご近所さんだった。

「なに、集めてるの?なんの花?」

「金柑ですよ。ほら、少し前まで黄色いのが散らばってたでしょ。今度は花が落ちてきて。・・・あ、そういえば、この木は先に実をつけてそれから花なんだ・・・ねぇ。」

「あら、ほんと、普通逆よねぇ」

二人で金柑を見上げ、やがて彼女は散歩の続きに歩き出す。

また、一人で残りの花殻を塵取りで集め、枯葉を入れたポリ袋の口をあけて一緒に入れた。

ザーッと入っていく白い小さな花の屑。

一瞬、ふわっと甘い香りがした。甘い優しいかすかな。

へぇ。いい匂いするんだなこの花。

口をキュッと縛るとき、空気が漏れてまたいい匂いがした。

「そうですよ。ゴミじゃありませんから。わたしの花は」

頭の上から金柑の木の声がした。