お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

わたしのヒキガエル

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もはやご自慢の紫陽花と言ってもいい。不死鳥紫陽花。

つい数日前、慣れてくると有り難みもうすれ、あ、咲いてるなくらいにしか思わないなどと言ったが、ひとたび病院で不安なことがあると、すがるような思いで眺める。

花はそんな私の勝手さとは関係なく、ただ、生き続ける。


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朝の散歩で見つけた花。花びらの先っちょにツンと突き出ている雄蕊だろうか。まるで女の子がちゅんっと立っているよう。親指姫を思い出す。

アンデルセンはこんな花を見てあの話をおもいついたのだろうか。

蕾が開いていくところは、花の精が生まれてくるようにも見える。おやゆび姫のためにお爺さんとお婆さんがこしらえてやったクルミのベッドを、なんてかわいらしんだろうと憧れた。

父が食べたクルミの殻をもらって綿を詰めて作ってみたが不器用な私が作るとちっともロマンチックでもなんでもない。姉がそこにピンクの小花模様の布を縫い付けて、フカフカの寝床にしてくれた。おまけに同じ布で小さな小さな掛け布団もこしらえてくれた。姉はいつだってなんでもできた。


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親指姫が、ヒキガエルとの婚約が決まり、悲しくて泣くところがあった。私は会ってもいないのに、どうして嫌だときめるのかわからなかった。

自分のことを好きになって結婚したいと言ってくれた人ならきっと、大切にしてくれるんじゃないかな。この人と結婚したら幸せになれるのに。絵本の中のヒキガエルはなんとなく頼り甲斐のある大人の男の人のように思えた。

お話は、結局最後にツバメの背中にのって南の国にわたり、お花のうえにそっと置かれたら、となりに同じくらいの背格好の男の子がいて、それは花の精の王子様だった。親指姫はその王子様と結ばれてめでたしめでたしだったけれど、私はそれでもやっぱり、ヒキガエルのほうがよかったのにと思っていたのを思い出した。

どうして隣にいた王子というだけで、その人が自分とうまくやっていけるとか、大切にしてくれると思うのだろう。なんの苦労もしないで突然ポンと手に入った奥さんをこの王子は本当に大事にするだろうか。こんな遠い国まで来ちゃって育ててくれたお爺さんもお婆さんとも離れ離れで。

私にはメデタシメデタシとは思えなかった。

わざわざ自分から結婚して下さいと言いにきた近所に住むヒキガエルの方がきっと彼女を大事にするのに。

そんなことを母にいうと、「そうやっていつも、わざと屁理屈ばかり言う」と嫌がられたが、どうしてみんな、このことにひっかからないのか、そっちの方が不思議だった。

「世の中はね、そういうふうにできてるの。幸せに暮らしましたってあるんだから、幸せなんだよ。ヒキガエルとじゃ、住む世界が違うでしょ」

姉も呆れたようにそう言ったが、それでも腑に落ちないのだった。

 

それから数年後、わたしは夫と結婚をする。

なんの部活に入ってはダメだとか、あの子とは付き合うなとか、進学も就職も恋愛までも舵とりをしてきた母にはあえて一切なにも話さず、初めて自分で決めた人生の一大事だった。

母はムッとしたが、迷わなかった。

彼が一番最初に私に結婚を申し込んでくれたから。一番最初に真剣になって勇気をふりしぼってくれたから。

今年の秋で25年。

24歳の私。キミの勘は正しかった。

 

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