慎重な息子苦言を呈す
「今日さ。ちょっと焦った。散歩に出て。三軒茶屋まで行って帰るだけのつもりだったんだけど、なんかいつもと違う道を行ってみたくなって。246のところにふたまたに別れた道あるでしょ、あれ進んでみたんだ」
「迷ったか」
「いや、初めはね、大丈夫だったんだけど、坂道を上がるのがいやだから、あえて、下り坂か、平坦な道を選んで歩いてたらさ」
「迷ったか」
「うん、いざとなったらタクシーに乗ればいいやと思ってたらさ、気がついたら車も通らない鬱蒼とした森の中のような・・」
「グーグルマップがそういう時のためにあるんだろ」
「だって、私、地図、読めないから」
「・・・恐ろしい」
「どうやって帰ろうかと思ったらさ、バス停があって全然知らない停留所の名前で・・」
「乗るな!」
「乗ったら野沢の交差点まで戻れた」
「もう、その好奇心を捨てろ!好奇心の赴くまま何かするな」
ふっふっ。
好奇心があるからこそ、ハラハラドキドキして味わい深いんじゃない。
その最中はそれどころじゃなくて必死だけど、振り返ると、それが彩になるんじゃないか。野暮だねぇ。
雨上がりの道は緑と土の濡れた匂いが、懐かしい。
夏休みに家族て箱根に行った時、お風呂上がりに夕涼みに散歩した時の匂い。
ガールスカウトのキャンプの時の匂い。
桜の木を見上げたり・・
あれ、これはもしかして、サクランボ?
立ち止まり口を開けて必死にシャッターを押す。
ウロウロ道に迷いながらキョロキョロ歩く
これは・・・野いちご・・?
食べられるかなぁ・・。
毒苺もあるっていうけど・・。
食べてみた。
酸っぱくてうっすらベリー。
いちごだ!
母の好奇心は止まらない。
イチゴの話はしなかった。