お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

人と人

 

 夜中三時半、窓からの月の明かりがあまりにきれいだったので枕元のiPadで写真を撮った。

『パシャッ』

シャッター音は思いがけず寝室に響いた。

夫が「どした?」と目を覚ました。

「なんでもない」

いつもなら地震がきたって起きないのにわざわざ立ち上がりこちらの様子を見に来た。

「なんでもないよ、ただ写真とってただけ、月の」

つき?怪訝そうに窓を見上げ、ああ・・と納得して戻っていった。

「大丈夫なの?」

「大丈夫だよただ撮ってただけ」

結婚間もない頃、洗濯を干しながら鼻歌を唄っていた。

やっぱり夫がとんできて「どうしたの?」。

「どうしたのってなんで?」

「いや、急に唄いだしたから」

「いや、ただの鼻歌です。」

「あ、そうなんだ、鼻歌唄う人うちにはいなかったからどうしたのかと思った」

クリスマスはケーキつくってプレゼント交換してと盛り上がっていた私と「え?なにかするの?」とびっくりした夫。

ケーキくらいは食べようよというと、じゃあ僕が買ってくると、会社の帰りにデパートでモンブランといちごのロールケーキを二本、得意になって抱えて帰って来た。

「迷ったから両方買った」

 

私のなんてことないことと、彼のなんてことないこと。

そんなつもりじゃないのにびっくりさせたり、勝手に悲しくなったり、思いがけずに喜んだり。

丸ごと全部理解はしていない。

長い生活で慣れて勘所がうまいこと他の人よりは働いて気が楽な人というくらいのところなんだろうな。

彼にしてみたって妻が夜中に突然、窓を見上げて月の写真を撮りだすような癖があるとは想定していなかった。

そしてクリスマスのロールケーキがこんなに強烈なエピソードとして残っているとは思ってもいないだろう。

 

傷つけるつもりでなく

ただその人のなかではなんてことない話をしているのに

聞いた方の間隔ではぐさっときてしまった。

人と人の間のそんな事故も多かったんだろうな。

だれとでも。

 

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余談ですが。

この記事を書いているところに夫がやってきて画面をなんとなく覗いてきたので閉じようかと一瞬思ったが「僕の事?」と興味ありそうだったので「そうだよ」と読んであげた。

お話のなかの登場人物になっているようで嬉しいのか「いいねえ」と小さく手をバチパチさせて去っていく。

うれしいのか。

どうでもいいのか。

嬉しいように見える。

頭の中までは 見えない。