お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

一泊しただけのホテル

久しぶりの家族旅行だった。

息子の大学受験、夫の単身赴任、私の入退院とタイミングがうまく取れなかった。確か前回は息子が高校一年だった気がする。

4年ぶりか。

今回はそれぞれが自分の時間を過ごす夜だった。

夕飯を食べ、買ってきたお菓子の袋を広げて少しテレビを観て。各々自分のベッドに潜り込む。

息子はゲームを始める。

私は持って行った本を広げるが、字ずらを追うだけで瞼が落ちる。

夫は警視庁24時。

「そろそろシンデレラ城の上に花火が見えるぞ」

息子の声が眠りの遠くから聞こえる。

「始まった。見えるぞ」

窓を開け、バルコニーに出たようだ。もわんとした生暖かい風が入ってきた。

「おぉ、見える見える」

うとうとしながら、ハッと思う。こうやって親にディズニーランドの花火を見ようぜと声をかけてくるのも今年限りかもしれない。

ガバッと起き上がり、私もバルコニーに出た。

確かに遠くでチカチカと光っている。シンデレラ城は青になったり、赤になったり。

夜の空を飛行機が飛んでいく。

「ずいぶん、飛んでくな」

「成田空港に帰ってくるんじゃない?」

足元にはミッキーの形の窓をつけたシャトルバスが何度も往復している。

風は生暖かい。

「結構見えるね。やっぱり夜はこっちでのんびりにしてよかったな」

夫も出てきた。

「おぉ。見えた見えた綺麗だなあ」

それだけ言うとまたすぐ部屋に戻り警視庁24時。

「あいつ、いい加減なやつだ」

「とりあえず、仲間に入っとこうという・・要領がいいんだな」

時間にして、ほんの数分。

家族揃ってのバルコニー。

「じゃ。私も中に入るよ」

息子はまだ一人で眺めていた。

ホテルの部屋で過ごす夜。それぞれがそれぞれの。

私はまた眠りにつく。

テレビの音。息子の鼻歌。

効きすぎのエアコン。

きゅうきゅうにセットされたシーツに高過ぎるふかふかの枕。

忘れない気がする。