お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

コケた

靭帯を損傷した。

昨日の夕方買い物帰りのことだった。買い物袋をぶら下げて歩いていた帰り道、踏み込んだその一歩を足首からグキッとやってしまった。

ありゃりゃ。転ばないでよかったと次のもう一歩を踏み込むと少し痛む。こういう転け方をしたときのあれで、しばらくしたら通り過ぎる痛みだろうと歩き続けようと更に踏み込むとチクッとした思いがけず強い痛みがきた。足をつけない。

あれ、これ、やばいのかもしれない・・・。

家まではあと2、3分のところだ。力を入れるところを調節すればなんとか進める。

足を引きずりながらなんとか帰宅した。

門から家に続くちいさな階段も力が入れられない。ああ、これは確実にやってしまった。

その様子を家の中から見ていた息子がやってきた。

「どうしたの」

「いや、たいしたことない、ちょっと転けて」

「おーいー。それ、絶対たいしたことなくない奴じゃん、母さんのたいした事無いはたいした事あるんだ、たいしたことないって言って実は骨盤骨折してたじゃないか」

たしかに、向こうから突進してきた自転車と自分の乗っている自転車とがぶつかり転んだが、相手の子供がものすごくオロオロしていたので「大丈夫だよ」と立って見せた。動転していた彼を見送り、そのまま自転車に乗って帰って来たが家に帰ると立ち上がる事ができず、タイヤのついた椅子に座って夕飯の支度をしたのだった。そのときも大丈夫大丈夫といい、結局二日後、家で倒れ救急搬送されたとき、骨盤もが折れていることがわかったのだった。

「でもこれは違う。わかる。そんな重大なことじゃない」

「医者いけ〜」

「めんどくさい」

「いっとけ、足は大事だぞ、俺は心配だ」

どうも痛みの具合からすると捻挫ではないようだ。すると、骨か、筋か。どっかにヒビでも入ったような気もする。そうだとすると厄介だ。

それでも医者に行くつもりはなかった。ヒビだとしても固定して治癒するのを待つしか無い。

湿布を貼り、息子が小学生の頃サッカーに使っていたテーピングテープが余っていたのでそれをぐるぐる巻いて寝た。

昨晩、休み明けで出社していった夫はさっそく、飲み会だった。

12時近くにプンプン匂わせ帰宅し、息子に「こっちくんな、くっせえんだよっ」と怒られ「ひぇーん、くさいっていうなぁ」とやっていただけあり、今朝は二日酔いのようだ。

「・・トンさん、今朝、軽めでおねがいします・・」

「足、ひねった」

すると急にうなだれていた顔をあげ

「えぇっ?どうしたの、どこで転んだの。お医者さん行った?」

と向かって来た。

「だって、昨日の夕方だもん、転けただけだし」

「トンさんの大丈夫はあてになりません、行きなさい」

「めんどくさいんだもんー」

嫌がっているのは、病院に行く手間とか道中ではない。

私は平均より骨が弱い。生まれつきのものだそうだ。

平均より心臓が小さい。肝臓の数値が常に異常値、コレストロール値も常に異常値、その他もろもろ、全般的にちょっと癖がある。

食事の吸収とか、体力がないこと、脳の働きに弱いところがあるなど、生活に支障があるほどのことはないのだが、お医者さんには

「まあ病院通いはずっとすると思っていればいいんじゃない」と言われている。

しかし、これには病名がない。

そういう風にできているのだ。

それをいちいち説明することになるのがめんどくさいのだ。

ニュアンスのようなものなのでわかってもらえるのが難しい。

要するにちょっと転んだだけで骨を折る。ちょっと寝不足が続くと倒れる、ちょっと脂っこい物を一切れ食べただけでピューッとこれストロール値が上がる。そんな「がんばれない体質」と、なんとも格好のつかない身体なのだ。

はじめて行く整形外科医は疑問に思うのではないか、どうしてちょっとくじいただけで骨がやられるのかと。それを説明するのが苦痛なのだ。

そして、おそらく不可解な表情のまま「そうなんですか・・」となにか怪しむようにこちらを見る。

そんなことがこれまで何度かあった。

その度になにか罪を犯したような気持ちになるのだ。

「いやだーめんどくさいー」

わざと枕を抱えベッドに転がった。

「行きなさい。足は大事だよ。ちゃんと通院一日で八千円でる保険にはいっているから」

・・・・。なんだと。

「八千円、もらえるの?」

「うん、通院日数にたいして一日。ちゃんと保証されてるから」

八千円かあ。病院はうちからまっすぐ直線5分のところだ。八千円でるなら、少々つっこまれた質問をされても頑張れる。

「・・行く。八千円、私がもらっていい?」

「当たり前です」

「行く」

 

という訳で行って来た。

で、じん帯損傷。

レントゲンに映った私の骨は全部つながっていた。妙な尋問もなく、湿布をもらってテーピングをして終わり。

そして。

そしてだ。先生がかっこ良いのだった。低い声で、ベタベタしていないが丁寧でさっぱりして、なにより私好みのサラッとしたお顔立ちだ。

この先生に会いに来て、湿布をもらって八千円とは、なんだか保険屋さんに後ろめたいが、いくらでもここに通いたい。

「しばらく二週間くらい激しい運動や胡座はやめてくださいね」

二週間。その間この先生に会いにこられるのか。そしてその度に八千円か。もう何度でも通うぞ。

「あの、次はいつ来たら・・」

「そうですね・・ま、じゃ、来週もう一回見せてもらえますか」

あ。。。らい・しゅう・・。

現金なもので、いい男とお金によって俄然モチベーションが変わる。

帰宅して息子に骨は折れていなかった、靭帯だったと告げると

「なんだよそれ、靭帯ってあれだぞ、サッカー選手がやるやつだぞ」

と重症扱いされた。

「しかしちょっとやそっとじゃ自分から病院行かない母さんが行ったから俺は怪しいと思っていたぞ」

お小遣いにつられて行ったのだとは言いづらい。