キュッとしてパッ
夫が戻っていった。
朝、まず7時に、休みでも学校のある息子が家を出る。洗濯物を干しに二階に上がっていき、ついでにまだ眠っていた夫の枕元で
「息子、出かけるけど、見送りたいんじゃないの?」
と呟く。
ガバッと飛び起き、急いで下に行こうとするので、まだこれから着替えて行くところだから大丈夫だよ伝えると、ありがと、ありがとと言いながら、トイレに向かった。
誰かが出かけるとき、なんとなく、みんなが玄関に集まる。トイレにはいっていたり、出遅れた時は、ベランダから顔をだしたり、個室から声をかけたり、とにかく、関わる。見送るというよりも、立ち会うというほうが正しい。
あれはなんでだろう。
納得がいくというか、確認するというか。
出る方も「行ってくるね」と言いながら待つし、送る方も面倒でも行く。
「久しぶりにあれやるか」
息子が左手を下に差し出す。やろうやろう。夫がそこに自分の左手を乗せる。私の左、息子の右手、夫、最後に私の右。
「ファイトッ、オー‼︎」
「も一度」
「オー!」
ラグビー選手のようにハグをして、じゃ、行ってきます。気をつけてな、またくるから。今日は帰りは8時だよね。
息子が幼稚園に行き始めた頃、夫を送り出す時、毎朝やっていた。その名残で、テストとか、出張とか、・・・手術とか、誰かの一大事のときに、なんとなく思い出したように円陣を組む。
全員が機嫌がいいときばかりではなく、息子がふてくされていたり、私がどんよりしていたりもあったが、この呼びかけが掛かるとなぜか、ムッとしながらも一応参加する。
久しぶりにやってみて、それぞれの体温が重なった手の感触に少し照れる。
家族ではありながら、こうして手と手が触れ合うことってなくなった。頭をぐしゃっとしたり、背中をポンと叩いたりはするけれど。
キュッと結集した10本の指は、パッと離れ、それぞれのところに戻る。
さあみんな、来月までそれぞれのポジションで生きるのだ。