お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

超マイペース、が、気のいい男

今朝、夫から電話がかかってきた。

「おはよう。寝てた?」

「いや、横になって起きてた」

「あ、起しちゃった?ごめんね。あのさ、実はトンさんにちょっと折り入ってお願いしたい案件があるんですが」

「断る」

「いや、そんな、聞いてくれ」

「断る。申し訳ないねぇ。お力になれずに」

ゲラゲラ笑いながら「いや、ちょっと、聞いてくれ」を繰り返す。

夫が「実は」と切り出すときは、いつも大抵私の想像を超えたようなことを言い出す。

実はワールドカップのチケットが取れたから、一人でドイツに行ってくる。休暇はもうとった。

同じパターンで、朝鮮の時もあった。韓国の時もあった。

実は会社の付き合いでセミオーダーの背広を二着買った。

実は会社の付き合いでクリスマスケーキ、ホールで二つ買った。

実は明日から三日間、休暇をとってある。

実はあとちょっとでマイルの有効期限が切れちゃうから、台湾に行ってくる。

 

なんだそんなことかの場合もあれば、えぇぇぇっ!!と泣きたくなるようなことも数知れず、あった。

衝撃は大小様々だが、この「実は」から始まる彼の告白に、いつしか私は身構えることを覚えた。

土曜の朝っぱらから電話をかけてよこしてまで言う今日の「実は」。

さあ、今日はいったい何を言い出すつもりだ。

「あのね。あの、なんだ、その、ちょっとさ」

ズバッと要件を言わないのをじりじりしながら聞いていると、つまりは「お金が足りない」と言うことだった。

単身赴任する前も今現在も、我が家は夫が自分のお小遣いと、必要経費を差し引いて、生活費として、私名義の講座に振り込んでくれる。

夫がいくら、自分の口座に入れているのか、給料がいくらなのか、結婚してから、よくは知らない。ただ、私サイドとしては、苦しいとまでは言わないが、決して有り余るほどのお金をもらっているわけでもない。

一家の貯金や、保険関連も彼が管理しているので私は、手元に入ったお金とボーナスをやりくりして、年間過ごす。

貯蓄担当、夫。教育費、冠婚葬祭、生活費、レジャー担当が私と、暗黙の了解で線引きされている。

「講習会とか試験とか本代くらいにしか使ってないんだよ、本当に。先月、ちょっと使いすぎちゃって、今月の引き落としに足りないんだよね」

引き落としの金額はいくらなんだ・・。5万・・・10万・・まさか、それ以上ってことはないだろうねえ・・。

「25000円、振り込んで欲しいんだけど」

お。気が緩む。

月曜日に入金するからと請け負うと、「ほんっとすまない」となんども言った。

そう言われると、こっちも「苦しゅうない」と言う気分になってくる。

「ありがと、ほんと、悪い。ありがとね」

 

電話を切ってからベッドの中で伸びをする。

働いて、もらった自分の稼ぎを二つに分けて、こっちが足りないから、そっちのを少し分けてよこしてと、動かすだけなのに、律儀に謝る夫。

どっちも自分で稼いたお金なのに。面白い人だ。

そして、その分け前を受け取って生活を切り盛りしているだけなのに、なぜか「しょうがないなぁ」と踏ん反り返って恩を売る妻。

いい奴だなぁ。