朝の散歩
早朝、門のインターフォンが鳴って起こされた。
夫が渋滞が全くなかったと、いつもより二時間早く着いたのだ。
6時半・・・・。う〜っと思うが、彼にしてみたら長い移動の末、やっとたどり着いたというところだろう。
出て行くと、隙間から顔を出し手を振っていた。
6時半。
「まだ朝ごはん、食べないでしょ。ちょっと歩いてくる。休んでて」
「僕も行く」
二人で並んで歩く。息子が熱を出したこと、バイトを休むために連絡を入れたら、これからはもっと早く連絡をしてと言われしょげてたこと、鳩サブレーを買ってきたが重くて大変だったことを話す。
ふむふむと聞き終わると、今度は向こうが夏の休暇はいつ頃になりそうか、義父が引っ越したらしいとか、業務連絡をする。
それが済むと何も話すことはない。聞きたいこともない。
並んでただ、歩く。
「こんばん、何食べたい?」
「なんでもいいよ。」
「じゃ、息子がお腹の調子が今ひとつだから、ボリューム満点じゃなくて消化のいいものにするよ」
「それでいいよ」
もう、本当に話すことはない。
「あ、富士山」
交差点にくると、澄んだ空気の向こうに富士山が見えた。
「ほんとだ」
「な」
また歩く。
「トンさん、気持ちが落ち込むっていってたけど、大丈夫なの」
あ、そうだ、この前ラインで「心身共に疲れた」と書いたんだった。あの時はそうだった。今は身体がやや参っているけれど心は元気。通り過ぎたのだ。
「もう大丈夫になった」
どうしてここで「ありがとう、心配かけてごめんね」と言えないんだろう。きっと夫じゃない人になら言うのに。
「ふうん」
そしてまた、二人並んで黙って歩く。
それだけの40分。わずかにずれてた何かのメンテナンス、完了。