お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

今夜はカレー

このところ息子の試験で心がわさわさしていたようだ。

終わって虚脱しているところをみると、見守るだけなどと腹を括ったつもりでいながら、私自身も神経がそっちにいっていたようだ。

本人も落ち着いているようすだったけれど、それでもちょいちょい「受かるといいなぁ」「落ちたらカッコ悪いよなぁ」と呟くのを聞いていた。

なにしろ、誰にも言わずコソッと受けて、ダメなら致し方ない、そこにとどまるといったつもりで願書提出をしたところ、よりによって出席をとる際に、教授がマイクを通して「あ、君か、転科希望だしたのは」とのたまったらしい。

当然クラスはざわつき、自称友達のいない息子も、その授業が終わった後、顔見知りの仲間達に「え、受けるの?すごいじゃん」「なんでなんで」「勇気あるねぇ」と囲まれたらしい。

バスで一緒になったり学食で顔を合わせるたびに、あちこちから声をかけられすっかり学科中の知るところとなってしまった。

「いいじゃん、オープンになった方が気が楽だよ。影で噂になるより」

「もうデリカシーなさすぎだよ」

試験が近づいてくると消化したはずのこの一件が思い出され、愚痴るのだった。

 

とにかくやるべきことはやった。

テストが終わった翌日の昨日は二人して一日中ぼんやりすごしていた。

「いい加減、外の空気すわないと、寝て食ってスマホみて1日が終わっていく」

午前も終わるころ、息子が言う。

「私も。とりあえず行動しよう」

「母さんどこいくの?」

どこも行くとこもいきたいとこもない。

ドトールで本読んでくる。そちら様は」

「行きたいとこないんだよなぁ。とりあえず渋谷ジュンク堂とツタヤ覗くのが無難なとこかな」

スカイツリーのてっぺんまでいって、ただ戻ってくるっていうのもいいんじゃない」

自分がいつかやってみようと温めているプランをご提案してみた。

「おれ、そういうのダメなんだよね。やってみたことあるけど、行きはいいんだけど、帰り道、なんかさ・・・悲しくなる」

わかる。

「俺なにやってんだろって・・・なるんでしょ」

「そう。だからこういうときはいつもの行動範囲内でうろつくのがいいんだ」

二人して行くあてがなく、片やとりあえずドトール、片や、とりあえずジュンク堂

ドトールに来たものの、本に頭がなかなか入っていかない。無理やりメモをとってみたりするが、それこそ『ワタシ、なにやってんだか』といった感じである。

それでもなんとか一冊読み終わるころ、携帯が鳴った。

これから帰るという連絡だろうかと思って出てみるとやっぱり息子だった。

「あ、俺。やっぱ今日出かけるのやめようと思って」

「え?今までなにやってたの?」

彼より先に家を出てから、かれこれ二時間は経っている。

「調べたてた。どこいこうかなと思ってさ・・そしたらだんだん面倒になってきたからやめた」

これもわかる。わかるのでなんとも言えない。

「そういうわけで、家にいますんで」

「ハイハイ」

すぐ帰ろうかなと思ったが、思い直し、もう一度本を開く。

頭に入ってこないんだけど。

とりあえずもめんどくさいってあるよね。

こんな日は、とりあえずカレーが一番。