クリエイターなんだから
散歩に出かけると言うと、「何時に帰る?」。
「知らないよ。そのときの気分で。億が1、出かける場合は鍵かけていってね」
テスト期間もおわり、平日のバイトも入れていない息子は連日、家にいる。
私の極楽席の、あの陽のあたる椅子に腰掛け、窓際でiPhoneの画面を見ながら、動かない。
母が出入りする度に「若者らしさがない」「どこかに行きなさいよ」と言うが気にも止めない。「うるさい」とも「はい」とも言わず、シレッと動かない。
どうせ春休みが終わったら、のんびりもできなくなるだろうし。窓際男を放置して私は出かける。
緑道を歩き、神社で手を合わせ、ドトールでコーヒーとパンを食べながら本を読んでいると携帯が鳴った。
息子だった。
「あのさ。あんまり家にいたら調子わるくなってきたから俺もこれから出る。公園歩いてコンビニでiTunesのカード買おうと思ってるんだけどさ。・・・インフルエンザの菌、大丈夫かね」
息子はインフルエンザになることを異常に恐れている。来月頭に転科試験を備えているのと、アルバイトで役職が一つあがり仕事が面白くなってきたので休みたくないのとで「今、ぜったい倒れるわけにはいかない」と呪文のように言っている。
「ちょっとさぁ、ノイローゼぎみなんじゃないの?」
街を歩いただけでインフルエンザになるなら、とっくになっている。リビングの冷たい床で一晩寝るほうがよっぽどリスクが高い。
「来年は物を創り出す勉強するんでしょ。ネットで今の流行りや世間の関心を持っていることをリサーチするのもいいよ。やめろとは言わないけど。そろそろ、バランスとらないと、自分で発信したいっていう方の脳みそが、錆びるんじゃないの。」
「そうだよなぁ」
「そうだよ。そろそろクリエイターとしての自覚を持たないと。自分をいい状態にするのも一つの技術だよ。家の中で小さい画面だけ見ててもいいものなんか創れないよ」
「だな。じゃ、ちょっと歩いてくるわ、その辺」
クリエイターという単語にくすぐられた。
ふふふ。
クリエイター・・・・。・・・これはしばらく使える。