お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

利息貸し

「今年もさ結婚記念日忙しくて、気持ちだけってことで、ごめんね」

「はぁ?やだ!なにいってんの?甘ったれるんじゃない。お花くらいかってこられるだろうが。なんじゃ、気持ちだけって。気持ちがあるならなんか持ってこい!」

もちろん冗談である。

「あら。トンさんいけません。そんなはしたない。そんなこと言っちゃいけません」

「うるせえ。忙しいんだな、別に欲しいものがあるわけでもないからいいかなって黙っていれば、もう何年だ。結婚記念日も誕生日もずーっとなんにもなしじゃん」

「・・3・・5年・・?」

 

なにか物が欲しいわけじゃない。私は指輪もハンドバッグもブランドもあまり興味がないので、じゃあダイヤモンドの指輪買ってあげるよと言われてしまうと正直、「それだけのお金があったら別の方がいい」と思うのだ。

じゃあなにが欲しいのと言われば困ってしまう。

アンティークのデスクだったり、陽のいっぱい入るサンルームだったり。ツリーハウスとか。パソコンも欲しい。南房総のお花畑も箱根のススキ野原も。

しかしそれらは今の夫には無理な話で、年がら年中講習やテストに挑んでいる相手に望めない。

定年退職をするのを待つしかないとあきらめている。

 

そこに息子が割り込んだ。

「おい、うちの教授は休みに奥さんと二人で映画をみてきたって嬉しそうに話すぞ。昼ごはんに寿司をごちそうしてやったと言っとたぞ。おやじ、母さんに寿司なんかおごってやったことあるのかよ、外で。」

「この前ドトールで二人で食べたよ、母さんにご馳走したもん」

ドトールじゃねえんだよ、教授は夏休みには息子おいて、二人でニースまで行ってきたんだってよ。そういうのしてねえだろ、一回も」

「だってぇ」

「だってじゃねえんだよ、甘ったれるな、母さんが黙ってりゃいい気になりやがって」

「ヒーン」

「ヒーンでごまかすんじゃねえ!」

 

記念日は一週間後である。

夫はやっぱりいつものように、当日の起きたら真先に「結婚記念日おめでとう。ことしもよろしくお願いします。結婚してくれてありがとう」と嬉しそうに言う。そして「今日は早く帰ってくるね」と言って、本当に早くに帰ってくるはずだ。いつも通り手ぶらで。

それでいい。今はそれでいいのだ。

気まずさや義務感からとりあえずにと、パパッと店先でそれらしきものを選んでチャチャッと器用にやられちゃうより、彼の言う通り「気持ちだけ」でいい。

・・・今はね。

利息をたっぷりたっぷりたっぷりと・・・。ふっふっふ。