お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

78歳

昨日は母の78になる誕生日だった。

9日。

「明日うちでお祝いしようかと思うんだけど、どうだろ」

「いいよ、何?お寿司?お鍋?わかった予定入れておく、何時に帰ればいい?」

鈍感さと鷹揚さと優しさとサービス精神。

この人のこういうこだわりのなさに本当に救われる。

「じゃ、ちょっと言ってくるね」

母のところに行くと一人、テレビを観ていた。

「あのさ。明日、お姉さんお休みなんでしょ、うちに夜ご飯食べにいらっしゃいませんか?」

怪訝そうな、ちょっと構えた様子でこちらを見ずに答える。

「いいけど・・?何で?」

「お誕生日じゃない」

あぁ・・さも今思い出したかのように面倒くさそうに言う。

「いいけど・・・。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、息子もちょうど学校早く終わるし、みんな揃うから。お祝いしようよ」

「いいけど・・・何じ?」

もう可愛くない。決して浮かれた顔を見せまいと。

私も手を抜きたいからお寿司とるよ、7時にどう?いいじゃんお互い夕飯楽できるし。じゃあそういうことでよろしくね。

長いは無用と引き上げようとする背後に

「無理しなくていいのよ」

とこっちを振り向いた。

 

あの不穏な夜以来の集まりは、めでたいことがいい。

気まずいなぁといういう息子に、イチゴを差し入れするよう頼んだ。

 

母はトウモロコシを茹で、そら豆をゆで、きゅうりの漬物、チーズとクラッカーを4つの大皿に乗せて持ってきた。

「お寿司以外、何にもしなくていいから。こっちからいろいろ用意して持っていくから」

どうせ、気を使って無理してんでしょ。面倒くさいけど手助けしてやらないと・・・。

そんな風に茶化されるたび、振り払うように、じゃあ私も何か用意しないとと、エビフライを揚げたりしたもんだが、もうやめた。「ありがと〜」。できるだけ呑気に返事した。甘えていいと言っているのだ。甘える。

そうだよ、ちょっと無理してるし、お寿司の他にどうしようかとかあれこれ考えるの苦手だから助かっちゃうよ、そういうの緊張してうまくできないし。

 

姉はビールを持ってきた。

母を主役に乾杯し、プレゼントを渡す。

綿の刺繍模様の入った七分袖のブラウスを奮発しておいた。

「あらぁ。お食事とは別にプレゼントまであるの?ああ、いいわね。これ便利そう。」

そういやこの人は、うわあ嬉しいと、はしゃいで受け取ったことがない。いつも査定が入る。

しかし見ればわかる。今回は気に入った。

その証拠に手に持っている時間が長い。気に入らない時は剣もほろろ、すぐにその辺においてしまう。ひどい時は二、三日後、あなたにあげると突っ返されてしまうのだ。

じっくり刺繍を眺め、袖の膨らみを触り、それから畳んで袋に戻しリボンを結び、また、リボンを引っ張り中を見る。これは相当気に入っている。

お酒の力っていい。

わいのわいのと飲んで食べて、頭がぼんやりして、みんな半分いろんなことがどうでもよくなってとにかく笑う。

「俺からのプレゼントや」

息子が席を立ち、ばあちゃんの前にいちごが山盛りになった皿を置く。

「アッラァ。ありがと。恐れ多くいただきますわ」

酒より強力なり、孫の力。

何が何だかわからないままどうでもいい話が続いた。

 これが家族。