湧き上がってくる
コンビニのATMで振り込んだ。
隣は本屋。いそいそと覗く。
本の業界は映画みたいに新しいものが出るときは、いっせいに店頭に新刊が並ぶ。それをうっかりしていた。
本屋の新刊コーナーを丹念に見る。お目当ての作家さんのものはまだだった。立ち去り難く、眺めるだけと自分に言い聞かせつつ、そのまま見続ける。
おぉ。この人のエッセイ。続編が出たんだ。おおっ。これ、アマゾンでチェックしてたやつ。いやいや、今日は見るだけ。この前丸善で買ったばかりだろう。
あぁっ、この人!やだ。滅多に新刊出さないのに。残り一冊になってるヨォ。
服も化粧品も実用品も大抵のものには自制心がかかる。
今日、この店にこなかったと思えばいいのだ。見たから欲しくなっただけ。
家にいて必要だなぁ、こんなのあったらいいなぁと思っていたものが商品として目の前に現れた場合でも「一ヶ月経っても頭から離れなかったら考えよう」とする。一ヶ月後、忘れてなくて、いよいよ買うか買わないかの脳内会議にかけられるが、ここを突破するものはそうそうない。自分のものとなるとユニクロのスリッパ一つでも、なぜか、ひょいっと買えない。
が、本は。どうにも。
あの本屋での一瞬の出会い、出会うべくして出会ったと思い込んでしまう恐ろしい確信。
手に取り、パラパラと数ページ読んで面白くなると、もう、立ち読みで雑に内容をさらってしまうのが勿体無くて、あとは家でゆっくりじっくり味わいたくなってしまう。
本日の出会いは4冊。
今、今読み始めるならどれから?本は買って帰ってきたその日が一番ワクワクする。
(今日、この勢いでこれから読みたいものだけ一冊、買っていいよ。)
・・・・・・。
本棚をいったりきたり、候補にあがっている4冊のタイトルと作家、出版社をiPhoneにメモをする。
在庫は・・これは一冊だけどマイナーだから、置いてっても大丈夫。これは平積みになってるし、アマゾンでもすぐ手に入る。これとこれか・・・。どっちも一冊しか置いてない。・・・どうしよう・・・。こっち・・・いや、こっち・・。
(仕方ないなあ・・迷うなら二つ買えば?)
(いいのっ?)
(いいよいいよ。買ってきな)
(やーん、ありがとうぅぅぅl!)
お一人様劇場を脳内でしながらレジに持って行く。よく知っている男の店員さんに本を差し出すとき、つい、浮かれたにやけ顔で本を差し出した。
怪しいすっぴんオンボロ中年女がにやけ顔で近寄ってきたので、一瞬身構えた彼は
「カバーは」
いつも通り事務的に仕事に専念した。
「あ、いらないです、大丈夫です」
えへらえへら、本を抱え、ニマニマしながら家に戻るのだった。
4時過ぎ。二階の部屋にコーヒーを抱え、本を抱え上がっていき扉を開けると、ちょうど夕焼けが斜めに入り込んで、部屋がうっすらオレンジだった。
部屋にこもった日光の熱。
イケアの椅子にどっしり座り本を開く。
今日は脳と体と心が調和している。