お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

職人気質の彼

今度買った掃除機は、やたら細かい。いや、賢い。

わずかなチリでも見逃してくれない。いや、見逃さない。

電源を入れて、床を滑らせる。ゴミを感知すると赤いランプをつけて自動でブォーっとターボをかける。そして綺麗になったと彼が納得いくと、ランプは消えて、通常の緑のランプがついて、また静かに仕事をする。

使い始めの時は、びっくりした。赤いランプばかりがついてなかなか前に進めない。

「もう、ちょっと神経質なんじゃないの」

無視して進むと部屋中いたるところで赤いランプがつく。掃除機の方でも「おいおい・・こりゃぁないぜ」と呆れていたことだろう。

あれから数日が過ぎ、今は毎日かけ続けている成果か、だいぶランプのつく範囲は減ってはきたが、彼の仕事への執着心は相変わらず厳しい。昨日あれだけしっかりやったから、今日は合格点だろうと思っていても、そうはいかない。

一晩の間に床に落ちた塵や服から落ちたホコリ、髪の毛、目につかないゴミを徹底的に除去しないと気が済まない親方は、ちょっと進んではすぐ、「はい、ゴミみっけ」とランプをつけてブオォォォォっとモードを切り替える。

よーし。私も次第に「今日こそは」とムキになる。

床をまず隅から隅まで雑巾掛けをして、それからスイッチを入れた。

これで文句はないでしょう。ふふふ。今日はお仕事のやりがいがなくてつまらないかもしれませんぜ、親方。

けれども職人は許さない。今日も得意げに赤ランプを点滅させてこれ見よがしにブォォォォ。

それで今日はとことん親方の気のすむまで付き合ってみた。赤いランプがつくたびにそれが消えるまで延々とそこで止まる。平均30秒くらいかけて、その現場を何度も何度もヘッドを上下させるとやっと合格となり、前に進める。とことん付き合った。

ついに部屋のどこをどの角度からかけてもランプはつかなくなり、充電も切れた。

「よし、今日はここまで。よく頑張ったな。」

「はい、親方。ありがとうございました。」

私たちの間に妙な一体感が芽生えた。

「うむ。明日もまたやるんだぞ。」

・・・おそらく、一晩明けた翌朝にはまた、全て一から始まるのだろう。

修行は続く。