母親というものは・・・
今日、これから祖母のところに母と行く。
「お姉さんが出かけてから、出発、午後でもいい?」
「何時でもいいよ」
本当は先週の金曜日、行くことになっていた。私はそれに合わせて前日に夕飯の下ごしらえをし、早く寝て体調を整えていた。
準備万端。しかし当日朝になって母がやってきて
「あなた、今日、この天気だから体調悪いでしょ。また明日でもいいのよ」
と言い出した。
こんなこと滅多にない。大抵は、私が不調だとしても、それを隠してやり過ごす。どうしてもダメな時はこちらからキャンセルを入れるが「だからアタタは使えないのよ。」と不機嫌になられるのに。
「絶好調よ。大丈夫よ」
「この風が強い中、無理しなくていいわよ、明日にしましょ」
明日土曜日は夫が3時に帰ってくる。あんまりドタバタしたくない。そう言うと
「そう、じゃぁ月曜日にしましょう」
これまたおかしい。その翌日の日曜でもいい。夫も息子も早朝家を出るからと言うと「旦那さんが帰って疲れてるから、ゆっくり休みなさい」とのってこない。なんでかなと思いつつ、じゃあ月曜ねと落ち着いた。
「この気圧のせいか、お姉さんが頭痛いって言ってるのよ」
「もう出社したの?」
「今日、休みなんだって」
これか。
姉が仕事が休みで、しかも頭が痛いと言っているので今日は出かけたくないのだ。
母は姉が休みの日は外出しない。友人からの誘いもできるだけ入れないが、やむを得ない先約の場合は行く。しかし、私だと融通が聞くので土壇場になって中止にする。
姉も自分が旅行から帰ってくる日や、具合の悪い日に母が出かけると、なんとなく面白くないのか、母の外出の予定を聞くと「いいけどその日、私帰ってくるんだけど」「いいけど、その日、私、休みで家にいるよ」と言う。
この二人の関係性と心理はいまだに謎だ。
それだけ言っておいて姉は姉で、一人で出かける。美術展やコンサートは二人で一緒に行くのが暗黙のルールのようだ。
一番妙なのは、バーゲンに姉が行ったとき、店からLINEで写真をよこして「これ、どう思う?」とやっていることだ。母からOKが出たら買い、よせと言われたらやめる。ここの違和感はつっつくと母の逆鱗に触れる確信があるので、言った事はない。姉にも。
ひとり旅で海外にどんどん出かけて行く姉。私よりずっと世界を社会を知っている。頭もいい。
姉という人物もつかみきれない。
この二人の関係はルームメイトに近いのかもしれない。
夫婦に近いのかもしれない。
「ごめん、うち、旦那がその日、休みで家にいるのよ」
と、日にちをずらし合うと言うのは私と友人の間でもよくある。
姉が夫で私は友人・・・。いや、私は今だにできの悪い手のかかる娘かな。
おそらく父が死んでからは、母にとって姉は夫なのだ。
姉には冷凍食品やスーパーの惣菜は出さないし、彼女の前ではくだらないテレビ番組は決して観ない。
先日、母の留守中に、姉がうっかり騙されて怪しい業者を家に入れて工事をする約束をしてしまったことがあった。直前になって結局、こちらからキャンセルをして事は済んだのだが、母が私を叱りにきた。それは違う、と息子と二人で説明すると「お姉さん一人を悪物にしないで!」とすごい剣幕で怒鳴って帰っていった。
これは母として「うちのお姉さん」をかばったのか・・。
きっと母なりの想いがあるのだろう。よくわからん。
日曜早朝、夫と息子を送り出し、銀座まで映画を観に行った。ぶらぶら歩いてデパートに寄る直前、母に電話を入れた。
「今からデパートの食料品売り場行くけど、何か買って帰ろうか?」
母の口調がいつになくはっきりしない。
「うん。・・・いいわ。今日。お姉さんが休みで、今、美容院に行っているのよ。何か今夜作ってくれるらしいから」
どうりで日曜も祖母のところに行く予定を入れないわけだ。
なんというか。まぁわかる気もする。
偉そうなことを言ってる私だって、息子が今日、1日目の授業、大学を楽しんでくるといいなと、頭の隅から離れない。
「息子が帰ってくる前に、私もゆっくり休んでおきたいから、お店に寄り道やケーキは今日はできないよ」
とつい、言ってしまうかもしれない。