お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

沿ってみる

昨晩、母が来て、夫にバレンタインのチョコレート買ってあげるから明日の午後、デパートに買いに行こうと言う。

「あなた、またモタモタしてるけど、デパートから向こうに配送してもらうなら早くいかないと間に合いませんよっ」

夫は16日に帰ってくる。

「14日は平日でしょ。いつも仕事で帰宅が遅いから、宅急便受け取れないんだよ。で金曜の早朝にはこっち来ちゃうし。荷物が宙ぶらりんになっちゃうのよ。手渡ししてくれても喜ぶし、いいと思うよ」

わざわざデパートまで行かないでいいんじゃないかなぁ。

「デパートじゃないとダメよ」

普通のチョコレートでいいんだよ。

そう言うと、「じゃ、明日はいかないってことねっ」と帰っていった。

「めんどくせえなぁ」

その場に居合わせた息子が扉が閉まるとそう言った。

 

「お母さんの要求や望みがわかっても、あなたがそれを察して全てに応える必要はないんですよ。自分の気持ちを瞬時に消して対応することはないんです。期待に応えられなくて相手が不機嫌になっても、仕方ないと割り切ることも自分を認める上で重要なことです」

担当医が言った言葉を思い出す。

これは、それに当てはまるのか。恥ずかしながらわからない。

ただ、不機嫌になって帰っていった母が今、悲しい気持ちでいるんじゃないかどうかが気になる。

何よっせっかく、チョコレートを買ってあげるって言ってるのに、プリプリ怒っているならいいが。膨らませてきた風船をパチンと私が割っちゃったのかなぁ。

 

朝、目覚めてまたその続きを考える。

行こう。デパート。とにかく母は行きたいんだ。私と。たぶん、私と、行きたいんだ。

朝食後、庭で水をまいているところに声をかける。

「おはよう。今日、行く?」

「だって、送っても無駄になるんでしょっ」

あ、こりゃ間違いない。行きたかったのだ。

「うん、でもさ、どんなのあるか見てみようか」

「いいわよ、行っても。じゃ、行きますか?」

 

デパートの地下売り場で、チョコレートにたどり着く前に、あちこち寄り道をする母。

体操教室のお友達にも何か買いたい。

この生ハム、お姉さんが好きだから買おうかしら。

あらこのハンドクリーム、すごく伸びがいい。

 

子分を従え、意気揚々と地下売り場を泳ぐ母。

それについて歩く。

「これ、旦那さんにどうかしら」

買ってくれたのは野菜ジュースの缶を1ケースだった。

単身赴任者の妻としてはチョコレートより、ずっとありがたい。

でも。この缶ジュース。いつものスーパーでも売ってるよ。お母さん。

 

何年かぶりに、夫と息子に高級チョコレートを買ったのは私だった。

こんなのもいいもんだな。