お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

伝えたいこと 伝わってほしい

昨日、友達が電話をくれた。親友だと思っている。高校からの付き合いだけれど、彼女とこんなに長く、深く、無防備に語り合う中になるとは思っていなかった。

だから、正確に言うと、気がつけば親友、という存在。

春、彼女の娘が浪人した。私立の名門でトップクラスの成績だったお嬢さんは、その派手な校風の自分の学校に馴染めないと外部受験をした。けれど、うまくいかなかった。

それがきっかけで彼女は鬱になってしまった。

活動的で毎週ジムに通い、演劇を見たり家庭菜園をやったり、とにかくエネルギッシュだった生活が、一転して、一番戸惑っているのは彼女自身だった。

 

私は自分がひどい精神状態になったことがある。気になって仕方なかったけれど、こちらから声をかけるのを我慢していた。

当時の私は、声をかけられるのも嫌だった。そっとしておいてほしい。この自分で作ったバリアの中でじっと1日が過ぎていくのを待つだけ。それ以外、エネルギーを消耗したくなかった。頭の中の私と、読んでいる本の作者とだけ、交信していたい。そんな張り詰めた日々だった。

もし、彼女がそんな状態だったら、そのバランスを壊すことは残酷なことになる。やっとの思いで保っているバランスを崩すことこそ、一番怖いことだ。

待とう。待っていて大丈夫だ。

 

その彼女からの電話だった。

3月の浪人が決まり、娘の卒業式に行けなかったという話を聞いて、その後、一回か二回ラインのやり取りをしてから、凍結していた私たち。彼女の鬱は続いていた。

「調子のいい日はなんとかジムに行ける時もあるけど、今はほとんど行ってないんだ」

夕飯を作る気もしない。娘を予備校に車で送ってからはずっと寝ている。自分がこんなだったら家庭が暗くなっていけないと思うんだけど、わかってるんだけど、家族は許してくれてるんだけど。

自分の母親は認知症で入院している。実の姉は離婚して、子供を残して再婚して出ていった。その残していった子供とも、姉とも、心が通わない。数年前に亡くなった父の遺産整理も未だ解決せず、裁判沙汰になっている。全てが彼女にのしかかってきている。そこに娘の浪人が決まった。

「結局、成績が良くて順調に来ていたあの子が私の希望の星だったのよ」

そこにすがった彼女を責めることはできない。

でも、彼女の娘さんは、もしかしたらこれで息が楽になっているかもしれない。

浪人は辛いことかもしれないけれど、二人を救うアクシデントになっていくように思う。

「今、魂が悲鳴をあげてるんだよ。これまでずっと頑張って自分を鼓舞してきたけど、もう、警戒レベルにきてるんだよ。これ以上自分を叱咤激励して立ち上がろうとしたら、死にたくなっちゃう。いいよ、もう。ただ、生きてれば。全て大丈夫。地獄を見た私が言う。このまま、ずっと鬱でも大丈夫。少なくとも私はそれでも好き」

まとまりのない言葉が溢れて止まらなかった。

どんな状態でもいい。ただ、存在していてくれれば。私の人生の中にいて欲しい。

強気の彼女が泣いた。

彼女のなきじゃくる声を聞いて私はほっとした。

ずっと頑張ってると、無理が無理じゃなくなってわからなくなる。

自分の本当の声が。

そして、本当の声はとても甘ったれで、怠けたがりなことをいう。

それを私たちは、親に言われたようにたしなめる。

怠けると恐ろしいことになると信じている。

 

怠けると元気なるんだよ。

でも、元気になるために怠けるんじゃないんだよ。元気になれなくてもいいんだよ。

怠けたいときは、怠けた方が絶対、いい。

安心して闇にいて大丈夫。闇の中でも目が慣れてくるときがきっと来る。必要なものは見えるし、自分の最大の味方の核の自分がずっとそばにいるのもうっすらと見えてくる。

 

彼女に言いながら、自分にもそう言い聞かせていた。

電話をくれてありがとう。