100歳に力をもらう
祖母に会ってきた。
ちょうど体操の時間で、広間でラジオ体操をみんな、椅子に腰掛けながらやっているところだった。前にホームの介護福祉士の若いお兄さんが一人立ち、お手本をやりながら一人一人に声をかけている。
祖母は一番後ろの真ん中の席にいた。真面目な顔で、両手を上に上げ、きびきび動く。部屋に入ってみていると、私に気がついた。手を振ると、上に上げていた手を大きく交差させて振り返してきた。
遠くから私に気がついたこと。私が自分の客だと理解していること。見つけた時の顔が昔っからの現役の笑顔だったこと。一瞬にしてホッとした。
最後、ご指名で
「じゃ、最後、歌で締めようか。イオさん、何か歌って」
とお兄さんに言われると、
「何がいい?・・・じゃァ・・う〜さ〜ぎ〜お〜〜いし、かぁのぉや〜ま〜」
と屈託なく大きな声で歌い始めた。そこに他のみんなが続いて合唱になった。私も一緒に歌う。
部屋に行き、今朝思ったこと。夫がいないと、いきなり真面目になっている私のことを話した。小学生の時のことは覚えていなかった。あんなに面倒を見てもらったのに、してあげた本人は忘れている。してあげたって思っていないのだなぁ。
「時間があると作り置きなんか作って、私、新婚以来の真面目さよ」
と言うと声を上げてケラケラ笑ってくれた。嬉しい。
スイカを出すと、大好物と大喜びしてどんどん食べる。嬉しい。
祖母が未亡人になってデパートで働いていた時のこと、娘時代にお菓子屋と本屋の手伝いをしていたこと、だから自分は今でも足腰丈夫で、一人で歩けるんだということ。
順繰りに何度も同じ話を得意になってする。くるたびに話してくれるので、私もよく知っている話だが、まるで初めてのように聞く。どこを突っ込んで聞けばさらに得意になって生き生きを話すのか、わかっているので、そこを膨らますと、大きな目をさらに大きくして、声を張る。
今日もちゃんと会話ができた。冗談を言い、冗談に笑う。
やっぱり来て良かった。
「今日はご苦労様」
会いたいから来たのだと言っても、やっぱり必ず、最後にこう言う。
そして、私をエレベーターホールまで送り、もう一度
「ありがとね」と言って笑って見せた。
最後の笑顔はいつも、切ない。
私もとにかく生きよう。
立派とか、ちゃんとしたとかは、まず置いておいて、とにかく生活をただ、続けていこう。