ご機嫌よう
昨日も息子は11時に帰ってきた。姉が門に鍵をかけて締め出しをくらいインターフォンを鳴らす。
「鍵持って行かなかったの?」
「探したけど、出てこない」
うっそつけ。探してもいないくせに。リュックは背中から動いていない。仁王立ちだ。それ以上何も言わず家に入り、二階に荷物を置きに行ったきり降りてこない。
あ、このまま寝るな。
何か外で嫌なことがあったのか、疲れ果てたのか。とにかく機嫌が悪いのは確かだ。
こういう時は逃げるに限る。私はさっさと皿にラップをかけ、味噌汁は鍋から器によそり、やはりラップをしてお盆に乗せる。撤退撤退。突っつかないほうがいい。夜中に目が覚めて食べたかったら食べればいい。朝まで寝るならそれもよし。
「おやすみ〜」
ドアの外から声をかけたが返事はない。すでにもう、寝ているのか。
そのまま私も寝た。
朝4時半に目が覚めた。確か今日は二限から。朝食はゆっくりでいいはずだ。久しぶりに早朝の散歩にでた。
朝の空気は澄んでいて、まだ動き出していない。犬と飼い主と、ジョギングする人。ゆっくり陽が昇り始める。急に気になる。学校で何かあったのか。やはり途中から科を変わると何かと気苦労するのか。
小学生じゃないんだからと自分に言い聞かせるが、気になる。かわいそうとか、心配とかではない。笑っていて欲しい。陽気でいて欲しい。
子供が苦しそうに身を固く、殻に閉じこもり不機嫌になっているのを見るのは辛い。心の中に常に重く気がかりとして居座る。
なんでもいい。とにかくバカ陽気でいて欲しい。
笑っていて欲しい、ただそれだけだ。
人のことを心配しているくらいなら、自分の世話を見ろ。
地に足をつけよ。腹に力を入れ、空気をいっぱい吸って、笑顔で吐き出せ。
笑って笑って笑って。
笑顔の自家発電。
笑えば不安は吹き飛ぶ。周りの不安も一緒に抱えてやろう。いい気分でいること。それが私の務め。
全てにおいてそれを最優先させて暮らしていこう。
やるべきこと、正しいこと、世の常識ではない。焦点を自分の機嫌に定めるのだ。
人と比べず。
自分を批判せず。
機嫌よくいること。それだけでいい。それはとても難しいことだから。
それだけを。
帰ったらもう一度、ベッドに潜り込んで寝よう。
身体を休め、心を無駄に消耗しない。
ご機嫌な1日にするのだ。