お気楽日和

誰かに手紙を書く気持ちで、事件性のない平凡な毎日を切り取ってみようと思います。

散歩の途中の心の温泉

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ここが私の心の故郷。

 

昨日、衝動的に「神保町行こう」と湧いてきた。

散歩の途中だった。立ち止まり、数歩また進み、また立ち止まり、また進み、また立ち止まり、エイっと踵を返し、駅に向かった。

 

今住むこの街には結婚して2年目に越してきた。両親との二世帯同居を始めるためだった。父の病気の三度目の再発があり、本人はそれがタチの悪い病気だと知らず、二世帯同居の家を建て始めていた。

私はやっと母の元から離れ羽を伸ばしたばかりの夢のような暮らしを手放したくなかったが、それよりも、父が同居を楽しみに建てている家に引っ越さず、我を貫けばきっと、後で自分が後悔しながら生きていく、それはもっと嫌だった。

夫に相談した。夫は一晩考えさせてといって布団に行き、翌朝、いいよと言った。

今この時期同居をするのは婿養子でもないのに、生涯二世帯になるということだ。私の両親と暮らすことを恩着せがましくもなくあっさりと承諾してくれた。

こうやって思い返してみると、やれ図々しいだの、自分勝手だの、デリカシーがないだのと散々不満を夫にぶつけてきたけれど、彼は肝心要のところで自分勝手でもデリカシーの無い人でもなかった。今更。夫の大きな器の中で私は跳ね回っていただけだったんだなぁ。

この街に越してきてからの生活は辛いことばかりだった。

息を詰めて、落ち度の無いように、失敗の無いように、いつも、爪先立ちで神経を張っていた。

疲れ切った時、いつもふらっと神保町に来る。

そこは中学から結婚式の前日までを過ごした私の故郷。

企業、出版社や通った公立中学校、大学、古本屋、大きな本屋、スーパー、文房具屋、喫茶店、いろんなものが一箇所にぎゅっと詰まった町。

地下鉄の出口からそこに出て来ると、一気にあの頃の自分が吸っていた空気がそこにある。

あぁここ。歩き始めると細胞が喜んでいるのがわかる。

 

疲れているつもりはなかった。

だから「神保町!」って湧いてきた時、「え?」と躊躇した。

インスピレーションに従って、散歩の途中、思い切ってやってきたのは正解だった。

いつものように細胞がブルブルっと力が入ってゆく。

お風呂に入るとブルブルっとして「あぁこんなに身体冷えてたんだなぁ」と感じるように「あぁ疲れていたんだなぁ」と気がついた。

目的もなくなぞるように通学路や学校帰りに寄り道した桜通り、すずらん通り、古本屋を歩いた。

心の温泉。神保町。

 

 

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