やりおったな
朝、シャッターを開けると花壇にパンジーが、4つ、植えられていた。
正確に言うと、沈丁花の下、ツツジの下、水仙の前に適当にバラバラと植わっていた。
あいつめ・・・やりおったな。
おととい、母が大量に花を買ってきた。あなたに花屋に一緒に行ってもらいたいのよねぇと、美術館の帰りに言われていたが、すらっとぼけて、こちらからは水を向けていなかった。花屋に行くからついてこいと言われたら、ついていけばいい、何もこっちからお膳立てしなくてもと放っておいたら、しびれを切らしたのか、体操教室の帰りに買ってきたのだ。
「こんなにどうやって運んだの」
ビニールの手提げに五個、それが4つ、玄関に置いてあった。
「花屋のおばさんに、年寄りだから持てないって行ったら一緒についてきてくれて持ってくれた」
「家まで全部持ってもらったの?」
「そう。半分持ってあげるって言うから、エッツ私も持つの?って言ったら、全部持ってくれた」
申し訳ない。花屋のおばさん。おばさんだって、私よりはるかに年上だ。
体操教室に行って元気いっぱいの年寄りが、血色のいい顔で花屋のおばさん従えて歩いているところを想像する。
「買いすぎちゃったのよ、あなたのところにも少しあげるわ」
そして買いすぎたと言うのかっ。
「いらない。私、手をかけられる範囲以上の花は置かないの。今のうちの子達だけでも誠意いっぱいだから。また前みたいに勝手に植えないでね。」
そう、私はあのとき、確かにきっぱりと断った。自分のところでバランスが悪くなって余ると、彼女はすぐこっちに植える。以前、ある日突然、水仙があちこちから芽を出した時には驚いた。知らない間に球根を植えていたのだ。
犬も猫も大好きなのに飼わないのと同じで、花も手入れを面倒に思わない程度にしたい。好きだな、可愛いなぁと思うものを少なく大事に育てたい。
・・とも言ったはずだ。
なんだ、このバラバラに植わってるパンジーはっ!
そういえば、昨日庭でゴソゴソ土いじりをしていた。あぁ。植えてるのか。と思って私は台所に立っていた。
ふと見ると、ポストの脇にごちゃっとビニールの鉢と抜いた雑草、枯れた枝葉のゴミが山になっている。今日はゴミの日、もう収集車がくる時刻、隣の家のシャッターは全部降りている。
それらを集めてゴミ袋に入れて、自分のうちのと一緒に収集場まで置いてきた。