働く人
朝ごはんを食べようと思ったら携帯が鳴る。なぜか嫌な予感。
姉からだった。
「私。悪いんだけど・・・」
「何忘れたの?」
「ジャケット」
ジャケットって制服じゃないか。よく「財布を忘れた」と、昼までに届けてくれっていうのがかかってくることがあるが、今日はそういうわけにいかない。
「今、ってこと・・だよね」
「できるだけ早いほうが助かる」
もう。もう。もう。子供がランドセル忘れて学校行くようなものだ。仕方ないなぁ。
「すっぴんで今すぐ出るから、すぐ来てよ」
職場の近くに着いたらこっちから電話をすると約束をして切った。
姉の勤務地は渋谷だ。久しぶりに午前中の繁華街に向かう。電車に乗ってすぐ、当たり前ことにびっくりした。
車内も街もすでに稼動していた。どの人も目的を持って街を歩いている。動いている。活動している。
私の呑気な日常とは全く違う時間軸があった。
姉に制服の上着を渡す。「ご苦労」そう言ってスターバックスのプリペイドカードを差し出した。
「これでコーヒーでも飲んで帰って」
「いいよ」
「2000円くらいまだ、入っているから、あげるよ、全部使っていいから」
むむ。確か、この前も2000円。要らない。これもらったら、なんか姉妹じゃなくなっちゃう。
「いい。本当に、要らない。息子にいつもお土産とか誕生日、買ってもらってるし。」
「また、なんか買ってくれってこと?」
違うんだけどなぁ。違うのになぁ。
「違うよ。少しでもお返しできたらってこと」
「そ、じゃ、サンキュ」
お姉さ〜ん・・・。
「わぁ、助かったありがとう〜!」ってのが欲しかった。私。