ヨタヨタコンビ
パソ子は結局、暑さが落ち着いたらApple Storeのジーニアスに持ち込むことにした。
よろよろと、時間をかけながら必死になって動こうとしているのがだんだん気の毒になってきた。パソ子は反抗期ではない。よく考えてみれば、彼女が思春期のわけがない。
パソコンで8年といえば、犬や猫と一緒で、その数倍の年齢のはず。
これは、老化現象かもしれない。
私の使い方が荒くて生活習慣病にしてしまったのかもしれない。
それでもなんとか私の期待に応えようと、数々のバージョンアップや初期化に耐え稼働して、もう疲れ果てている。
一晩ゆっくり休ませると、健気になんとか立ち上がる。
もう、いいよ。涼しくなったらお医者さんに行こう。
多少の出費は覚悟してるよ。治してもらおう。
などと。
やっているうちに。
私も今朝から同じような状態である。
いきなり体が動かない。息子が出かけるまでは気合いと気力でなんとか陽気にやれたのだが、その後、バタッと文字通り力が入らず動けない。
何か食べなくてはと思っても這いずって冷蔵庫まで行き、そこでまた、動けない。
自分でびっくりする。一体どうしたのだ。私!
テレビでは松岡修造さんが「辛い時こそ笑顔」と言っている。
そうか、そうなのかとやってみる。冷蔵庫の前の床に這いつくばって必死に笑う。
不気味なだけな気もするが、必死である。
だが本当に笑顔はすごい。形状記憶で、顔の筋肉のここに力が入ったときは喜び、陽気、前向き、楽しいと、脳が認識するのか、この状況も愉快に思える。
「よーし、やれるよ。これは病気じゃないよ、大丈夫だよ」
バカである。台所でおひとりさま劇場をやって、よろよろ立ち上がる。
パソ子。。お前もこんな思いをして稼働していたのだな・・すまなかった。
とりあえず、トマトとレトルトのおかゆと梅好み、ビスケットを食べた。
一歩も外に出ず、夕方。
だいぶ復活してきた。修造くん、ありがとう。
今夜は迎え火。
母と二人でお迎えするのは父と父方の祖母。
どうにかこなせそうでホッとしている。
私もパソ子もヨタヨタしながら、とにかく生きているのだ。
無理をせず、適度にメンテナンスと休憩をし、自分のペースでやればいいのだ。
そう思うと一層、あの手こずらせるパソ子が私のいい相棒のように思える。
まだまだいけるで。私たち。
トマトが届く
大学の時の友人からトマトが届いた。
お互いこの時期になんとなくお中元のやりとりをしている。
在学していた頃は、そんなに仲良しというわけでもなく、よく一緒に行動する仲間の一員同士だった。
縁とは不思議だ。
彼女は私が結婚すると報告したとき
「ちょっと見せなさい」
と言って、夫を自分が見定めてやると言った。
「思っていたより、軽薄じゃなくていい意味で『イマドキ』って感じじゃなくて、いいじゃない。tonに合ってるよ、あの人ならOK」
そういって祝福してくれた。
夫にとっても彼女は、なんとなく親戚のような、友達のような存在となり、何度か我が家にも泊まりに来たことがある。
入院したときはわざわざ福島から病院まで来てくれた。
離れているのに繋がっている。
箱を開けると真っ赤な宝石みたいなミニトマトがびっしり。
思わず、うわあ・・と漏れる。
一粒づつ、その場にいた息子と口に放り込む。
甘く、濃く、酸っぱい。最後に野菜の命の香り。
たくさん当てたパチンコ玉のようにピカピカ光って、ぎっしり入ったミニトマト。
袋に分けて、母に持っていく。ご近所さんにも持って行く。
それでもたっぷり。
嬉しいなぁ。
少しだけ、取り分けて冷凍庫に入れてみた。
今朝、カチンコチンになったミニトマトを冷凍庫から出し、蛇口の水をサーっとかけた。皮がペリッと剥ける。
そこにちょっとだけグラニュー糖を振リ、食べてみる。
これはいい。甘酸っぱいトマトのシャーベットだ。
レモン果汁を少し足してもきっと美味しい。
ご飯を作りながらパク。
洗濯干しながら、ぽいっ。
パソ子に手を焼いて、やれやれと思ってはパクッ。
たまらん。
ピカピカの宝石を口に入れるたびに彼女がニカッと笑って
「どうよ、美味しいでしょう」
と言っている顔が浮かんでくる。
ごめん、本当に具合悪いんだね。パソ子。
この数日、パソコンとの対話を続けてきたが、どうも、ただの反抗期ではないような気がしてきた。ひょっとすると、これは深刻な事態なのか。
あれからリカバリを3回流行ってみたが、軌道はするが、キーを押してからの反応が以上に遅い。「おいっ、聞いてるのかい?コラッツ」「・・・・ったく・・・なんなのよぅ・・・寝かせてよぉ〜」てな具合で、動作の途中で眠りだしてしまう。
いくらなんでも拗ねただけでここまでするだろうか。
近日中にApple Storeに持ち込んで見てもらおう。
入院が必要かもしれない。
・・・。
でも暑いしなぁ。。。
今、もしかすると私はまたしても、パソ子に試されているのか。
瀕死の状態かもしれないっていうのに、暑さを理由にドクターのところへ連れていかないっていうのか。
頑張れば行けそうな気もする。
・・・し、しばらく、うちで安静にさせて様子をみよう。
ゆっくり休め、パソ子。