大人の特権
昨日の夜。夜中1時半に目が醒める。喉が渇いて一階に降りていくと息子が二つの椅子に体を預けて寝ていた。
さっきお風呂に入ったらと言ったら「うるさいわかってる」と言ったくせに。
起こして二階で寝るよう促す。
眠気がすっかり飛んでしまった。しばらく、白湯を飲んで一階の薄暗い灯の中でぼんやり目を閉じてもう一度眠気がくるのを待つがダメなようだ。弱ったなぁ。
二階に上がり、ベッドに座るが全く寝床に入ろうという気になれない。
・・・・。床のホットカーペットをつけた。
寝るときはベッドで寝なくてはいけないって誰が決めた。
さっき息子に寝るなら二階に行きなさいと言っておきながら、楽しくなる。
ホットカーペットの上にゴロンと寝転び、ベッドから布団を引き摺り下ろす。
椅子からクッションをやっぱりずりずり引っ張って落として枕にする。
ベッドと机とイケアの椅子とテレビの真ん中の狭い空間に丸まって猫のように目を閉じる。
極楽じゃぁ。
頭のすぐ上にはテレビ。足元には机。右側には椅子。左はベッド。
狭い空間って落ち着く。
幸せだなぁ。
そこからストンと眠りに落ち、目が覚めたら6時だった。
大人になるっていいなぁ。
何食わぬ顔で息子を起こし、朝食の支度。
ネルシャツを買う
隣の駅の街の無印良品に行ってきた。
近々やってくる結婚記念日に向けて、夫に普段遣いのネルシャツを買って送ろうと思って向かう。予算、一万円。その中に、息子のシャツ一枚も予定されている。
ちょうど、割引をしているときだったので一枚、2900円のが2400円になっていた。
色を散々迷う。おじさん、一人だから、暗くならないように赤いチェックなんかにしようかな。いや、待て、この赤は息子に着せたい。息子用にキープ。
ではおじさんには。
カーディガンとシャツをセットにして送ろうと思っていたのだが、どうしてもいい組み合わせができない。カーディガンではモスグリーンの渋目のが素敵だなと手に取る。しかしそこに青だのグリーンだの、無地だのを合わせると、どうにもこうにも。
夫の顔をそこに想像してのせて見るのだけれど、どうやっても「疲れた中年オヤジ」になりそうでうまくいかない。このカーディガンのダンディな渋さを夫は着こなすだろうか。普段、ヨレヨレのスウェットを好んで着る人が。放っておくと一日中、寝間着か下着でパソコンに向かっている人が。
うーむ。
散々迷って、カーディガンは泣く泣く断念。今度帰って着た時一緒にここに来てから買っても遅くはない。それまでこの色、このサイズがあるかわからないが、なかったらご縁がなかったということだ。
一方息子にはついつい。
赤のチェックの他に、濃紺のちょっと地厚のものも買ってやりたくなる。セーターを面倒がって着ないので夜遅い帰りなど、これからどんどん寒くなるのが心配だった。
コウてやりましょう、これも。いそいそ、迷うことなく二枚決定。
夫の方は青に黄色が細く入ったチェック柄と、群青に白の細いチェックにした。
カーディガンがなくなったため、夫への予算が息子に移行した。ん?息子に二枚買いたくなってカーディガンを却下したのかな、私。ふふふ。
でも、嬉しい。これでよかった。満足のいく買い物ができた。
宅急便で食料を送ろうと段ボールに今、いろいろ詰めている。そこにこれを入れよう。結婚記念日指定で届くようにしよう。
きっと喜んでくれるだろうと思うと、ホクホクしてくる。
ネルシャツ4枚きっかり9600円。地味にお祝い。
浮かれる
息子が母の掃除機浮かれに間に合うように帰ってくるわけもなく。
そりゃそうだ。大学生男子が学校終わってまっすぐ帰宅なんかするわけない。
いそいそ、私は新しいマシンを手に、試運転に取り掛かる。キュイーンというこれまで使っていた弱っちい音でなく、ギューともゴーとも違う、でも頼もしい低い音。
まずは板の床から。カーペットの方がきっとたくさん埃があるので、いきなりそこはやらない。お楽しみは最後に。
さっき雑巾掛けをしたのに、やっぱり小さな小さな粉屑がうっすらプラスチックのカップの底に積もっていく。ふふふ。こうでなくちゃ。
自動モードというのがあって、それにしていると、時々「ゴミ発見!」と認識した途端赤いランプを点滅させ、さらに大きな音とパワーで頑張る。それもかわいい。
お楽しみのカーペット。朝、従来使っていた掃除機で一応かけたので、よくあるテレフォンショッピングの紹介vtrのようにちゃんとゴミは取れるだろうか。
綿屑がダストケースに小さなお団子になって溜まった。
こんなに採れた。まるで山菜か何かを収穫したかのように一人ニンマリする。
もっといろいろやりたい。
付属品には枯葉やサッシのゴミを拭き飛ばすブロウとかいうのもあるし、布団用のヘッドもある。
もっとやりたいと思うところでやめる。明日のお楽しみにとっておく。
台所の隅に壁からかけて設置した。これで不器用な私も料理をしながら野菜くずや鰹節や海苔を切る時の粉や調味料を気にしないで、作業できる。気をつけてもなにかしら床におっこどしているので、これまでは最後に必ず雑巾掛けをしていたが、これからはいつでもスタンバイしてくれているので気持ちが楽だ。
7時になって息子から電話が入った。
「ライン入れたんだけど、見てない?」
見てないよ、こっちは夢中なんだから。
「ごめん、なに」
「渋谷に寄ってるんだけど探してる本とCDが見つからなくて、あと払込もするからまだ遅くなる」
「わかった、先食べてるから」
「うん」
「あ、あんまり遅くならないようにね」
いつも言ったことのないセリフをつい言った。
「なんで?明日午後からだよ」
「いや、ちょっと今、掃除してて、主婦モード入ってまして。なんか母親っぽいこと言ってみたかっただけ、あんまり深い意味はない」
「ふーん、じゃ」
浮かれる母なのであった。