卒業
明日は息子の高校の卒業式。
中学の卒業式は必死で生きてる状態だったため、夫のみが参列した。
小学校の時は、倒れる二ヶ月前だった。とにかく参列したけれど、記憶が断片的にしかない。
息子に詫びたいことのうちの一つ。
私はコンプレックスが刺激されるため保護者会がどうも苦手。でも、息子の晴れ姿は見たい。味わいたい。
「明日、着る服は決めたの?カバンはあるの?」
例によって過保護の母が47の娘の格好を気にする。もう乗せられないぞ。この嵐に巻き込まれると、アクセサリーから靴からすべてコーディネイトされる。その作業をしているうちに私はだんだん、気分が重くなり、ますます行きたくなくなる。
「バッチリ」
「ちょっと着て見せなさい」
「いや、いいの。隅っこで座ってるだけだから、息子に恥ずかしい思いさせるほど特別浮いた格好じゃなければ。黒いパンツスーツあるから」
「ブラウスは?バッグも」
「大丈夫大丈夫」
会話だけでも追い詰められそうなので完璧であると強調しておいた。
なんだか本当に完璧で大丈夫な気分になって負荷も少し軽くなってきた。
それでも今朝、久しぶりの最後のお弁当を作って、バタバタしているうちに次第に気分が重くなる。
下駄箱を開け、長い事、何年も履いていなかった5センチパンプスを箱から出す。
試し履きをしてみる。
やっぱりな。
つま先が痛い。我慢は出来るけれどこれを明日ずっと履くのか。ハイヒールをうんざりするようになるなんて、もう、私の女時代は終わってしまったのか。
買ったまま、封も開けていなかった靴の踵に貼り付けるゴムを見つけた。まぁ。たいして変わんないんだろうけど。雑にペッペッと貼り付ける。やれやれ、よっこらしょっと。足を突っ込み、立ち上がる。ん?さっきよりいい。かかとがピタッとくっついて歩きやすくなった。つま先の右側がまだ当たるけどだいぶ、楽。
待てよ。俄然やる気が湧いて、足の爪を切ってみる。知らない間にこんなに伸びてた。薬指の爪が小指を押して痛かったのか。更にもう一度試す。
いいじゃーん。
嬉しくなって庭をヒールで歩く。窓の前に立って、自分を映してみる。
女の人だ。ちゃんと女の人っぽい。ユニクロのスパッツから出ている足首がキュッと上がってテレビに出ている人の足みたい。
もうこんな晴れやかな靴履かないから捨ててもいいと思っていた。
こんな日が来るとは。こんな日が来るとはねぇ。
死なないでよかった。
明日、おしゃれしていこう。誰も私を見ないけど。お化粧して、ヒール履いてちょっと気取って。
明日は私も、うじうじ小僧からの卒業の日にしよう。
自分軸の場所
今朝は、ほぼ毎日学校が休みだった息子が久しぶりに登校する日。明後日が卒業式で、今日は事前に同窓生名簿や記念の印鑑などをもらってきました。
久しぶりの登校で緊張するのは私。夫が毎朝出勤しているけれど、息子はその一時間前に家を出ます。
大学に入ったら、だんだんとこういうピンっと張り詰めた感じの朝も減るんだと思います。
おかげで、病人気分も吹き飛んで、さ、日常。
日常モードの第1日目。本を持っていそいそドトールに行きました。
私はなぜここが好きなんだろう。
居心地のいいホットカーペットの上でぬくぬくしていると、無性にここに行きたくなる。行かないとって思う。自分自身になりにいこうって思う。
それぞれ商談していたり、読書していたり。大学生が恋バナしていたり。塾に行く前の親子が軽食をとって宿題をしていたり。おばちゃんたちが悪口で盛り上がっていたり。静かでもない。うるさくもない。それぞれがそれぞれに夢中。そしていつもの店員さんたちのいつもの誠実な仕事ぶりと笑顔。
馴染んだ空間で落ち着く。
誰も私に話しかけてこない。
中断されない自分の時間。
そうだ。私自身にすっぽりなれる場所。それがここ。
ここで自分の軸を確かめて、私は台所に戻る。
ざわざわとしている中で、ほっと一人になるのが好き。
甘ったれ
映画を見に行っていた息子が床に這いつくばって眠っている母親を発見。
「どうした、具合悪いのか」
「いや、違う。大したことないんだけど、起き上がって動く気になれないから、そのまま気持ちいんで寝てた」
「それを具合い悪いというんだ。人は」
そうか。
「なんか買ってきてやろうか」
熱を出して何か買ってきてやろうかと言われたのはいつ以来だ。不調な時こそそれを隠していたから、家族もピリピリどんよりしている私には近寄らないのがうち家庭のいつもの形だと思っていた。
いちごが食べたい。あとアイス。ゼリー。おっとっと。ポカリ。
本当はどうしても買ってきて欲しいものはない。
でも頼んでみたくなった。甘えたくなった。
甘えないと甘やかしてくれない。
甘やかして欲しいなら甘えないと。
どうしてこんな簡単なこと、わかんなかったのかなぁ。
迷惑かけよう。わがまま言おう。